アリオダンテ

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルによるイタリア語オペラ・セリア『アリオダンテ』（HWV 33）は、1734年に作曲され、翌1735年1月8日にロンドンのコヴェント・ガーデン劇場で初演されました。

この作品の台本は作者不詳ですが、ルネサンス期の詩人アリオストの長大な叙事詩『狂えるオルランド』の一節を基に、アントニオ・サルヴィが書いた劇が原作となっています。この物語は、ウィリアム・シェイクスピアの喜劇『から騒ぎ』とも共通する源を持つ愛憎劇として知られています。ヘンデル自身も、この『狂えるオルランド』から着想を得て、『オルランド』（1733年）、本作『アリオダンテ』（1735年）、そして『アルチーナ』（1735年）という三つのオペラを生み出しており、『アリオダンテ』はその一つです。また、後にはエティエンヌ＝ニコラ・メユールやヨハン・ジーモン・マイールといった作曲家も同じ題材でオペラを作曲しています。

当時のロンドンでは、ヘンデルは貴族が支援するライバル「貴族オペラ」との激しい競争下にありました。劇場支配人ジョン・ジェームズ・ハイデッガーとの契約が終了し、ヘイマーケット劇場を失った後、ヘンデルは新しいコヴェント・ガーデン劇場へ移り、本作を制作しました。特に、貴族オペラがイタリアから招いた著名なカストラート歌手ファリネッリを擁して大きな人気を博していたことへの対抗策として、質の高いオペラを生み出す必要がありました。

初演は1735年1月8日に行われました。この際、劇場専属の著名なバレエダンサー、マリー・サレによるバレエがオペラの中に組み込まれました。主役アリオダンテは、イタリアから招かれた注目のカストラート、カレスティーニが歌いました。初演シーズンは11回上演されたものの、商業的には大きな成功とは言えず、期待したほどの観客動員には至らなかったようです。その後、このオペラはヘンデル没後長く忘れられていましたが、20世紀に入ってから再び上演されるようになりました。

本作は美しい旋律が豊富で、ソプラノ、メゾソプラノ、テノール、バス全ての主要パートに見せ場が与えられているため、ヘンデルのオペラの中でも比較的親しみやすい作品と評されます。特に、第2幕のアリオダンテによるアリア「Scherza infida（嘲笑せよ、不実な女よ）」や第3幕の同役のアリア「Dopo notte（夜の後）」といった楽曲は非常に有名で、オペラ全体から切り離されてコンサートなどで単独で演奏される機会も少なくありません。

編成

オーケストラ編成は、トランペット2、リコーダー2、フルート2、オーボエ2、ファゴット、ヴァイオリン、弦楽器、通奏低音です。

主な登場人物

主な登場人物とその声域（および初演歌手）は以下の通りです。

• - アリオダンテ: メゾソプラノ（初演カレスティーニ）- スコットランド王女ジネヴラの婚約者。
• - スコットランド王: バス - ジネヴラの父。
• - ジネヴラ: ソプラノ - スコットランド王の娘。
• - ポリネッソ: コントラルト - 王位を狙うオールバニ公爵。
• - ダリンダ: ソプラノ - ジネヴラの宮女。
• - ルルカニオ: テノール - アリオダンテの弟。
• - オドアルド: テノール - 廷臣。

あらすじ

物語の舞台はスコットランド。王女ジネヴラは騎士アリオダンテと愛し合っていますが、王位を狙う公爵ポリネッソも彼女を手に入れようと画策します。ポリネッソは自分に好意を寄せるジネヴラの侍女ダリンダを利用し、ダリンダにジネヴラの衣装を着させて密会することで、アリオダンテにジネヴラが不貞を働いたと信じ込ませる巧妙な計略を実行します。これを目撃したアリオダンテは絶望し自殺を図りますが未遂に終わります。しかし、アリオダンテが死んだという誤報が王に伝わる中、王は娘ジネヴラを不貞の罪で追放しようとします。絶望するジネヴラ。しかし、ポリネッソに裏切られたダリンダがアリオダンテに陰謀の全てを明かし、アリオダンテは生還します。ジネヴラの無実を証明するため決闘が行われることになり、ポリネッソが擁護者として名乗り出ますが、アリオダンテの弟ルルカニオに刺されます。瀕死のポリネッソは自らの罪を認め、真相が明らかになります。ジネヴラの無実が証明されてアリオダンテと再会。ルルカニオとダリンダも結ばれ、皆で喜びを分かち合い、めでたく幕を閉じます。

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