アリタソウ

アリタソウ：メキシコ料理に欠かせないハーブと、その意外な一面

アリタソウ（学名: Dysphania ambrosioides）は、ヒユ科アリタソウ属に分類される一年草です。別名ケアリタソウ、エパソーテ（スペイン語）、メキシカンティー（英語）など、様々な呼び名を持ちます。和名は、かつて佐賀県有田町で駆虫薬として栽培されていたことに由来しています。

アリタソウの特徴

アリタソウは、高さ1.2メートルほどに成長する植物で、不規則に枝分かれした茎から、長さ12センチメートルにもなる長楕円形の葉を多数つけます。茎の先端には、小さな緑色の花をつけた円錐花序を形成します。葉に毛が多いものをケアリタソウ（学名: C. a. var. pubescens）と呼び、区別する場合があります。生育期間は一年から数年で、その後枯死します。

アリタソウの分布と生育地

アリタソウの原産地は中南米、特にメキシコ南部です。現在では、ヨーロッパやアメリカ、アジアなど、世界各地の温暖な地域に分布を広げ、一部地域では侵入雑草となっています。日本では家畜が食べると有害なため、好ましくない植物とされています。東京のお台場や中目黒の目黒川など、意外な場所でも野生のアリタソウが繁茂していることが確認されています。

アリタソウの利用

調理

アリタソウは、独特の刺激臭とアニスやフェンネル、タラゴンを思わせる風味を持つハーブです。生の葉には樹脂性の辛味があり、柑橘類、石油、ミントを思わせるようなピリッとした香りが特徴的です。メキシコ料理では古くから利用され、特に黒いんげん豆の煮込み料理には欠かせない存在です。独特の香りを生かし、ケサディージャ、スープ、モーレ・デ・オーヤ、タマーレス、チラキレス、卵やジャガイモのエンチラーダ、スイートコーンの料理など、幅広い料理に使用されます。

薬用

アリタソウには、薬効成分が含まれており、古くから様々な用途に用いられてきました。伝統的には、豆による腹部膨満や無月経の治療に効果があると信じられており、月経困難症、マラリア、コレラ、ヒステリー、痰、カタル、気管支喘息といった症状の改善にも用いられてきました。

また、アリタソウから鎮痙剤や虫下しが作られ、最初の中絶薬の開発にも貢献したと言われています。

アリタソウのエッセンシャルオイルは、70％未満がアスカリドールという成分からなり、その他リモネンやシメンなどのモノテルペンとその誘導体を含みます。アスカリドールはハーブの成分としては珍しい成分であり、中毒性があり、刺激臭と衝撃に敏感な爆発物であるという危険性も併せ持ちます。そのため、取り扱いには注意が必要です。メキシコ産のアリタソウは、アジアやヨーロッパ産のものと比べて、アスカリドール濃度が低いと言われています。

その他のアリタソウ

本記事ではヒユ科のアリタソウについて説明しましたが、「アリタソウ」という名称は、シソ科の植物であるケイガイの別名としても用いられています。これらの植物は全く異なる種類であることに注意が必要です。

参考文献

Kennedy, Diana (2000) The Essential Cuisines of Mexico. New York: Clarkson Potter. ISBN 0609603558
平野隆久写真『野に咲く花』林弥栄監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、1989年
『写真で見る外来雑草』畜産技術協会、1995年
岩瀬徹『形とくらしの雑草図鑑』全国農村教育協会〈野外観察ハンドブック〉、2007年
岩瀬徹・川名興・飯島和子『校庭の雑草』（4版）全国農村教育協会〈野外観察ハンドブック〉、2009年
近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著『花と葉で見わける野草』小学館、2010年

もう一度検索