アルタクセルクセス2世

アルタクセルクセス2世：アケメネス朝最長の治世と、その光と影

アルタクセルクセス2世（在位：紀元前404年-358年）は、アケメネス朝ペルシア帝国において最長の治世を誇る王でした。彼の治世は、内乱やギリシア諸都市との紛争、エジプトの離反など、数々の困難に満ちていましたが、同時に帝国の安定と威信回復に大きく貢献した時代でもありました。本稿では、アルタクセルクセス2世の生涯と治世を、当時の歴史的背景を踏まえながら詳細に見ていきます。

激動の即位と兄弟間の争い

アルタクセルクセス2世の誕生年は不明です。彼の即位前の名前も、諸説ありはっきりしていません。父はダレイオス2世、母はパリュサティスです。兄弟には、野心的な弟キュロスがいました。ダレイオス2世の死後、王位継承を巡り、キュロスとアルタクセルクセス2世の間に激しい争いが勃発します。パリュサティスは愛する弟キュロスを後継者として推しましたが、ダレイオス2世は長子であるアルタクセルクセス2世を王位に就かせました。キュロスはサルディス太守に任じられましたが、兄アルタクセルクセス2世の暗殺を企て、反乱を起こしました。紀元前401年のクナクサの戦いでキュロスは戦死し、アルタクセルクセス2世の王位は保たれましたが、キュロス軍のギリシア人傭兵1万人は脱走し、クセノフォンの『アナバシス』に記された有名な撤退劇へと繋がります。

ギリシアとの関係と「大王の和約」

キュロスの反乱後も、ペルシア帝国はギリシア諸都市との紛争に悩まされました。イオニア地方の都市はペルシアに反旗を翻し、スパルタが介入して小アジアに侵攻する事態に発展。アルタクセルクセス2世は、スパルタに対抗するため、アテナイやテーバイなど反スパルタ同盟と同盟を結びました。コリントス戦争が勃発したのち、紀元前387年、サルディスで「大王の和約」（アンタルキダスの和約とも呼ばれる）が締結されました。この条約では、ギリシアのポリスの独立が認められる一方、ペルシアの支配が小アジアとキプロスで確認され、ペルシアに有利な内容でした。この条約により、長らく続いていたギリシアとの紛争に終止符が打たれ、ペルシア帝国は地中海世界における影響力を回復させました。

エジプト遠征の失敗とサトラップ大反乱

ギリシアとの関係が安定した一方、アルタクセルクセス2世はエジプトの離反という新たな問題に直面しました。エジプト遠征は失敗に終わり、その後、紀元前370年頃にはダタメスによる反乱（サトラップ大反乱）が発生します。この反乱は、従来は大規模なものであったと解釈されてきましたが、近年の研究ではその規模は限定的であったとする見解も出ています。アケメネス朝はサトラップに大きな権限を与えており、そのことが各地での反乱を招きやすかった面もありました。

晩年と王位継承問題

アルタクセルクセス2世は晩年、後継者問題に悩まされます。彼が指名した後継者ダレイオスは、別の息子オコスによって殺害され、オコスは王位を継ぎ、アルタクセルクセス3世を名乗りました。老齢であったアルタクセルクセス2世は、この事態を黙認したまま紀元前358年に亡くなりました。

史料とアルタクセルクセス2世像

アルタクセルクセス2世は、ギリシアの歴史家によって無能で弱気な人物として描かれることが多く、「ペルシアの堕落」の象徴として捉えられています。しかし、彼の治世は、決して平穏なものではなかったものの、帝国の存続と安定のために様々な努力がなされていたと解釈することも可能です。クセノフォンの『アナバシス』、クテシアスの『ペルシカ』などのギリシア史料、バビロンの粘土板文書、プルタルコスの『対比列伝』など、様々な史料からアルタクセルクセス2世像を多角的に検討することが必要です。ペルシア側の史料は少ないため、ギリシア側の記述に偏った見方にならないよう注意が必要です。

建築と宗教

アルタクセルクセス2世は、建築にも熱心に取り組み、スーサなどに多くの建造物を残しました。彼の碑文には、アフラ・マズダーだけでなく、アナーヒターやミスラといった神々への信仰が認められ、宗教政策においても従来のアケメネス朝とは異なる特徴が見られます。彼の墓所は、ペルセポリスに設けられました。

アルタクセルクセスという名前

アルタクセルクセスという名は、古代ペルシア語の「アルタクシャサ」（天則に属する国の持ち主）をギリシア語に翻訳したものです。しばしばクセルクセス（クシャヤールシャン：壮士、男子を支配する者）と混同されますが、異なる名前です。

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