アルタン・ハーン

アルタン・ハーン：モンゴル再統一の英雄

アルタン・ハーン（1508年1月2日 - 1582年1月13日）は、16世紀にモンゴル帝国（北元）を支配したハーンであり、その治世はモンゴルの歴史において重要な転換期となりました。「アルタン」はモンゴル語で「黄金」を意味し、彼の功績と影響力の大きさを象徴しています。

生涯

前半生

アルタン・ハーンは、ダヤン・ハーンの孫として生まれました。父バルス・ボラド・ジノン（サイン・アラグ・ハーン）の死後、内モンゴルのトメト部を治める小領主となります。当初は小勢力でしたが、その才能と努力によって次第に頭角を現していきます。

1524年に祖父ダヤン・ハーンが亡くなると、ボディ・アラグ・ハーンの宗主権を認め協力しました。1538年には、内乱鎮圧の功績により、チンギス・ハーンを形容する際に使われる「ソート」（天恵をもつ）の称号を与えられました。1542年には「トゥシェート・セチェン・ハーン」（補佐する賢明なハーン）の称号を得て、正統ハーンを補佐する立場となります。

これにより、内モンゴル高原の西半分に遊牧するモンゴル右翼3万戸の最有力指導者となり、勢力を拡大しました。1550年には明に侵攻し、北京にまで迫るという軍事的成功を収めました（庚戌の変）。

即位

1547年にボディ・アラグ・ハーンが亡くなると、後を継いだダライスン・ゴデン・ハーンはアルタンの勢力拡大を恐れて逃亡します。これにより、アルタンの勢力はさらに拡大し、1551年には正統ハーン位に推戴され、即位しました。

即位後も積極的な活動を続け、オイラトを制圧してカラコルムを支配下に置いたり、チベットやカザフスタン方面に進出するなど、領土を拡大しました。

しかし、1570年に孫のパカンナギが明に投降したのを機に、明との和平交渉を開始し、1571年に和平条約を締結しました（隆慶封貢／隆慶和議）。これにより、明から順義王に封じられ、朝貢を許される代わりに、略奪行為は不可能となり、不満を持つ庶民もいたようです。

最期

1580年頃から病に倒れ、1582年に75歳で亡くなりました。長男のドゥーレン・センゲ・ホンタイジが後を継ぎましたが、アルタンの死後、モンゴルは分裂に向かいます。

人物

アルタン・ハーンは、祖父に劣らぬ智勇兼備の人物であり、その才能と器量でモンゴルを再統一した功績は高く評価されています。

信心深い一面もあり、チベット方面に進出した際に仏教に帰依し、後に青海に迎華寺を建立してダライ・ラマ3世を迎えました。このことが、モンゴル全土にチベット仏教が広まるきっかけとなり、アルタンの曾孫はダライ・ラマ4世となっています。

一方で、1542年の山西省侵攻では男女20万人を虐殺し、200万の家畜を略奪、8万軒を焼き払うなど、その残酷さも際立っています。1550年の北京への侵攻では、明軍を籠城させるまでに追い詰めました。

しかし、武勇に優れるだけでなく、亡命漢人の官僚や白蓮教徒、明から逃亡してきた農民を積極的に受け入れ、彼らの文化を取り入れてフフホトなどの都市を建設するなど、内政手腕にも長けていました。

アルタン・ハーンは、軍事的な才能と政治的な手腕を兼ね備えた指導者であり、モンゴルの歴史において重要な役割を果たしました。彼の功績は、モンゴル民族の記憶に深く刻まれています。

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