アルフォンス・ムゾーン

アメリカの音楽シーンにおいて、アルフォンス・ムゾーン（Alphonse Mouzon、1948年 11月21日 - 2016年 12月25日）は、革新的なフュージョンドラマーとしてその名を刻んでいます。ドラマーとしての卓越した技術に加え、彼は作曲家、編曲家、音楽プロデューサー、そして俳優としても多岐にわたる才能を発揮しました。1960年代後半から1970年代にかけて特に人気を博し、フュージョンというジャンルの発展に深く関わりました。

生い立ちと初期キャリア

サウスカロライナ州チャールストンに生まれたムゾーンは、アフリカ系、フランス系、そしてネイティブアメリカンであるブラックフット族の血を引いていました。故郷のボンズ・ウィルソン高校で音楽の基礎を学び、卒業後には音楽と演劇をさらに深く学ぶためニューヨークへ移住。ニューヨーク市立大学シティカレッジでこれらの分野を探求しました。また、一時期はマンハッタン医科大学で医学を学ぶという異色の経歴も持ち合わせています。ドラムの技術は、高名なジャズピアニスト、ビリー・テイラーのドラマーだったボビー・トーマスに師事することで磨き上げられました。プロとしてのキャリアの初期には、1968年のブロードウェイミュージカル『プロミセス・プロミセス』でパーカッションを担当し、その後はジャズ界の巨匠であるピアニスト、マッコイ・タイナーとの共演を通じて経験を積みました。短期間ではありますが、革新的なフュージョングループ、ウェザー・リポートにも参加し、その後の自身の音楽の方向性を決定づける貴重な経験を得ました。1972年にはブルーノート・レコードとソロアーティストとして契約し、自身のリーダー作の制作を開始しました。

フュージョン期と多様な活動

ムゾーンがフュージョン界でその名声を確固たるものにしたのは、ギタリストのラリー・コリエルが率いるバンド、ザ・イレヴンス・ハウスに1973年から1975年にかけて在籍した時期でした。この強力なユニットの一員として、彼は『ラリー・コリエル & ザ・イレヴンス・ハウス』、『Level One』といったアルバムで印象的なドラミングを披露し、フュージョンシーンにおける中心人物の一人となります。イレヴンス・ハウス解散後も、1977年にはコリエルとの再会作『未来への再会』を制作するなど、彼との音楽的な繋がりは続きました。また、同時期には自身のソロアルバム『マインド・トランスプラント』を録音しており、これには後にジェフ・ベックグループでも活躍するギタリスト、トミー・ボーリンも参加しています。

フュージョンの分野で知られる一方で、ムゾーンはR&Bの領域でも才能を発揮しました。ブルーノートからリリースされた『ジ・エッセンス・オブ・ミステリー』、『ファンキー・スネークフット』、『ザ・マン・インコグニート』、そして豪華なゲストミュージシャン（ハービー・ハンコック、リー・リトナー、フレディ・ハバードなど）を迎えた『バイ・オール・ミーンズ』といったR&Bアルバムは、彼の音楽性の幅広さを示しています。

彼の卓越したドラミングは多くのミュージシャンから求められ、ジャズ、フュージョン、ロック、R&Bなど、幅広いジャンルの著名なアーティストとの共演を実現しました。そのリストには、スティーヴィー・ワンダー、エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、カルロス・サンタナ、ハービー・ハンコック、パトリック・モラーツ、ベティ・デイヴィス、チャビー・チェッカーといった伝説的な名前が並びます。特に、ジャズの帝王マイルス・デイヴィスとは、1991年の映画サウンドトラック『ディンゴ』で共演しています。ロック界にもその影響は及び、レッド・ツェッペリンのフロントマンであるロバート・プラントは、バンドが受けたアメリカ音楽からの影響の一つとしてアルフォンス・ムゾーンの名を挙げています。

ムゾーンは音楽活動と並行して、俳優としてもキャリアを築きました。1996年にはトム・ハンクス監督の映画『すべてをあなたに』に俳優として出演し、劇中でドラム演奏も披露しています。その他にも、『The Highlife』、『ホワイト・プリンセス』（マイケル・キートン、ケイティ・ホームズと共演）、『The Dukes』（ロバート・デヴィらと共演）など、複数の映画に出演しています。

レーベル運営と晩年

1992年、ムゾーンは自身の作品発表の場としてテネイシャス・レコードを設立しました。このレーベルからは、『The Survivor』を皮切りに、旧譜の再発や新録音を含む数多くのリーダーアルバムがリリースされました。中でも1981年のアルバム『モーニング・サン』は、特に東南アジア、中でもフィリピンで熱狂的に迎えられ、最も商業的に成功したアルバムとなりました。そのタイトル曲は現在もなお、フィリピンの様々な場面で親しまれ、使用されています。

また、彼はトロンボーン奏者のアルベルト・マンゲルスドルフ、ベーシストのジャコ・パストリアスというジャズ界の巨匠と共に「トライローグ」という名義で活動し、1976年のライブ録音（2005年再リリース）を残しています。これは、異なる楽器編成ながら高度な即興演奏を繰り広げる彼の柔軟性を示す一例です。

晩年も精力的に活動を続け、2014年にはプロデューサー、ジェリー・ギャラガーのプロジェクトに参加し、多くの著名ミュージシャンと共に録音を行っています。

2016年9月、アルフォンス・ムゾーンは希少ながんである神経内分泌腫瘍と診断されました。そして同年12月25日、ロサンゼルスの自宅で、息子のジャン・ピエール・ムゾーンによって68歳での訃報が伝えられました。死因は心停止とされています。

フュージョンの黎明期から発展期にかけて重要な役割を果たし、その多才な活動を通じて多くのリスナーやミュージシャンに影響を与えたアルフォンス・ムゾーン。彼の遺した数々の録音は、現在もその革新性と創造性を伝えています。『Marquis Who's Who』や『Who's Who in the World』に掲載され、『Jazziz』誌の読者投票でマルチインストゥルメンタリスト部門の第2位に選ばれるなど、生前からその功績は高く評価されていました。

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