アルモリカ

アルモリカ：古代ガリアの地からブルターニュへ

アルモリカ（ラテン語: ArmoricaまたはAremorica、ブルトン語: Arvorig）は、古代ガリアの一部を指す名称です。おおよそセーヌ川とロワール川に挟まれた地域で、現在のブルターニュ半島を含み、ロワール川河口からコー地方のディエップまで広がっていました。

語源

アルモリカの語源は、ガリア語の「are-mori」（海の上）に由来する地名Aremorica（are-mor-ika、海によって定まる地）です。接尾辞の「-ika」は形容詞を作るために使われ、後に名詞化しました。文献学者のフェリックス・ガフィオによれば、Aremoricaがラテン語の通常の形態で、Armoricaはその変形です。初期のアルモリカの範囲は曖昧で、10世紀にはノルマンディーの一部を含む広大な地域を指していました。

ブルトン語では、「海の上」をwar vor（ウェールズ語ではar y môr）と言います。古語のarvorはブルターニュ沿岸部を指し、argoad（森の中）はブルターニュ内陸部を指しました。このことから、ローマ人が最初に内陸部で沿岸部の人々と接触したことが示唆され、Aremoricaという地名が沿岸部と内陸部を含む地域全体を指していたと考えられます。

古代アルモリカ

古代ギリシャの地理学者ポセイドニオスとストラボンは、アルモリカニ（アルモリカの民）を、ゲルマン人のベルガエ侵入によって移住を余儀なくされたベルガエのガリア人に起源を持つ人々だと記しました。大プリニウスは『博物誌』で、「アルモリカはアクイタニアの古い名であり、南の境界はピレネー山脈まで伸びている」と主張しています。Aremoricaは国名ではなく、海に囲まれた地理的地域を指す名称です。

大プリニウスは、アルモリカに定住していたケルト部族として、アエドゥイ族、カルヌテニ族、メルディ族、セクシアニ族、ボイイ族、セノネス族、アウレルキ族、パリシイ族、トリカセス族、アンディカウィ族、ウィドゥカセス族、ボディオカセス族、ウェネティ族、コリオソリテス族、ディアブリンティ族、レドネス族、トゥロネス族、アトセウイ族を挙げています。

ガリア時代のアルモリカは、ガリア部族による広範囲な連合体を形成していました。その範囲は、現在のブルターニュ地域全体、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏の北西部、ノルマンディーのほぼ全土、そしてソンム川までの近隣地域を含んでいました。カエサルは、そこに住む人々の一部がベルガエであると述べています。

アルモリカ連合体の境界は厳密に定義されていませんが、セーヌ川河口からジロンド川河口までの範囲とする説や、ブルターニュがマンシュ県やカルヴァドス県にまで領域が減少したとする説があります。しかし、ウェネティ族の敵であったピクトン族やサントン族がアルモリカ先住民とみなされていないことや、コー地方のカレテス族がアルモリカ先住民とみなされていることから、こうした地形による区別は受け入れがたいものとなっています。

アルモリカの西部には、オシスミ族が定住していました。南部には、カエサルにその強さを印象付けたウェネティ族がいました。ウェネティ族は商人であり、強力な船乗りであり、長老で構成される元老院を持っていました。彼らはブリテン諸島からイタリアまで貿易を行い、真珠、シトゥラ、青銅製の壷、ワイン壷、神々の彫像、宝石、武器などを広めました。

ボルドーとナントから船はカボタージュ船団となって沿岸沿いにヴァンヌへ、サン・マロ地域に到達するまで広大な半島に品物を供給するためその他の全ての港に立ち寄りました。この港からの物資はブリテン諸島南岸に運ばれていきました。アルモリカとブリテン島の間の貿易は古くから確立されており、紀元前57年のプブリウス・リキニウス・クラッススの遠征後も、ブリテン島のケルト貴族が抵抗を支援していました。

ウェネティ族を通じて、アルモリカの半島はローマ人にイタリアのスズやブリテン諸島の銅、琥珀、奴隷、狩猟犬、鉛、塩、革、金やその他の商品を売っていました。塩漬け肉やアルモリカの食肉加工品は既によく知られており、ローマで食されていました。

ウェネティ族は現在のモルビアン湾岸に住み、ヴァンヌ（Vannes）という地名の語源となりました。興味深いことに、北イタリアに定住し6世紀には異なる強力な海洋都市国家ヴェネツィア共和国をつくったウェネティ族と同じ名です。

ローマ支配下のアルモリカ

ローマ帝国時代のアルモリカは、ルグドゥヌム（現在のリヨン）を首都とするローマ属州ガリア・ルグドゥネンシスの一部でした。4世紀に属州が再編されると、アルモリカはルグドゥネンシスの第2および第3の区分下におかれました。370年には、海上からの脅威に備え、ジロンド川からブローニュまでの沿岸監視を行う軍監視当局が設置されました。

ローマ人は地元エリート階級の中に彼ら独自の文化を採用させようとしましたが、アルモリカにおけるローマ化は限定的でした。文化人類学研究では、当時のアルモリカ住民はローマ支配下でも純粋なケルト語の名を持っていたことが明らかになっています。

ローマ人のアルモリカ征服は根本的に社会の構造を変えることはありませんでした。アルモリカにキリスト教が伝道されたとき、先住民はまだ非常に強く祖先の文化とつながっていました。ローマ化に関係した技術発展にもかかわらず、アルモリカ住民は反教会派の大部分を占めていました。

ゲルマン系海賊の攻撃から半島を防衛するため、ローマ支配層が島嶼部の住民からなるローマ軍団を召還した後、ブリテン島のブリトン人が移住を始めました。そしてアルモリカの海側の一部はブリタンニア・ミノール（小さなブリタンニア）、その後単にブリタンニア、すなわち現在のフランス語名ブルターニュと呼ばれるようになりました。

407年にローマ軍団が撤退した後、地元のエリート階級は公民の行政官を追放しました。アルモリカは430年代と440年代に反乱が起きました。451年のカタラウヌムの戦いでは、ローマの将軍アエティウスがフン族を破りました。

ブリトン人移住

5世紀から7世紀にかけて、ブリテン島のブリトン人がアルモリカの半島へ移住しました。彼らはアルモリカに既にあったノルマン人の領地全体、特にコタンタン半島、現在のカルヴァドス県に移住していました。

ノルマンディーは特にブルトン聖人の名残が豊かです。アイルランド出身の聖パトリキウスは、ノルマンディーの6箇所以上の教区にその名を残しています。ブルトン語の言語学的起源は明らかで、ブリテン島のケルト文化とケルト系のブルトン語の関係は深いですが、その詳細はまだ解明されていません。

ローマ帝国の弱体化は、西ゴート族による略奪が原因で、人々が帝国を離れ、アルモリカが土地を捨てた農民、奴隷、抑圧された者たちを惹きつける磁石のような存在になったことが原因であると考えられています。

9世紀から10世紀初頭、ヴァイキングがコタンタン半島やルーアン周辺のセーヌ川下流域に移住したとき、これらの地域はノルマンディーとして知られるようになり、アルモリカの名は使用されなくなりました。アルモリカ西部は既にブルターニュへと進化していました。

現代の用法

現代でもアルモリカの名が用いられる名称が2つあります。

アルモリカ山塊：ノルマンディーからブルターニュ半島、ヴァンデに向かって伸びる山地。
* コート＝ダルモール県：ブルターニュ地方の県名。

アルモリカはブルターニュと同義語であると誤解されることが多いですが、現在のブルターニュは古代アルモリカに完全に含まれるものの、アルモリカはブルターニュ半島だけでなく、コタンタン半島も含む地域を指していました。

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