ボイイ族

ボイイ族：中央ヨーロッパに生きたケルトの民

ボイイ族は、鉄器時代に中央ヨーロッパに存在したケルト部族であり、特にバイエルンやボヘミアとの関わりが深いことで知られています。古代ローマ人やギリシア人の歴史家によってケルト人またはガリア人とみなされていました。彼らの居住地からはケルト語派の言語が使用されていたことを示す金石文が出土していますが、ボイイ族が実際に使用していた言語については、まだ不明な点が多く残されています。

ボイイ族の足跡

ボイイ族の居住地域は、ガリア・ナルボネンシス（フランス南東部）、パンノニア（現在のハンガリー東部）、ボヘミア、モラヴィア、スロバキア西部など、様々な歴史家によって記述されています。考古学的証拠からは、紀元前2世紀にボイイ族がボヘミアからシレジア（現在のポーランドの一部）へと居住地域を拡大したことがわかっています。

イタリアへの侵入とローマとの戦い

ボイイ族が歴史に登場したのは、紀元前390年の北イタリアへのガリア人侵入の際です。この侵入によってポー平原からエトルリア人が追い出され、残ったエトルリア人もガリア人に同化されました。その後、ローマとの一連の戦争に敗れたボイイ族は、ガリア・キサルピナ（現在の北イタリア）の一部となりました。

また、ボイイ族はイタリア侵入の1世紀後にはギリシャ侵略にも関与した可能性があります。敗北後、アナトリア半島に定住し、ガラティアとして知られるようになりました。ユリウス・カエサルは、ドナウ川流域でゲルマン人のスエビ族がボイイ族に取って代わったことを記録しています。ローマとの戦争で人口の多くを失い、残った人々は他の部族に吸収されました。

名称の由来

ボイイ族の名前は、大陸ケルト語の要素である「boio-」に由来すると考えられています。これは「雌牛」または「戦士」と解釈でき、Boii は「集まっている人々」または「戦士の人々」を意味するとされています。

雌牛説

「雌牛」説は、古アイルランド語の amboue（部外者）やケルト祖語の ambouios（牛の所有者ではない）に基づいています。ポリュビオスは、ボイイ族の富は牛と金であり、農耕と戦争を生業としていたと記しています。

戦士説

一方、「戦士」説は、インド・ヨーロッパ語族で「打つ」を意味する bhei(ə)-、*bhī- が語源であるとするものです。言語学者のユリウス・ポコルニーは、ウェネティ語の個人名 phohiio-s- やイリュリア人部族名 Boioi、ギリシア人部族名 Boiōtoi（ボイオーティア人）などを例に挙げています。

ボイイ族の名称は、彼らがインド・ヨーロッパ祖語を話す民族であった可能性を示唆しており、中央ヨーロッパのケルト民族との関連性を示唆しています。

北イタリアへの移住

ポリュビオスは、ケルト人がエトルリア人のすぐ隣に住んでおり、「彼ら（エトルリア人）の美しい国に羨望の眼差しを向けていた」と述べています。ボイイ族はポー平原を侵略し、エトルリア人を追い出してポー川の右岸に住み着きました。ストラボンによれば、ボイイ族はアルプス山脈を越えて移住してきたケルト人の中で最大の部族でした。

リウィウスは、ボイイ族とリンゴネス族が Poeninus mons という西アルプスの峠を越えて北イタリアに侵入し、ポー川を筏で渡ってエトルリア人やウンブリア人をアペニン山脈の方に追いやり、そこに定住したと記しています。

ボノニアの占領

ボイイ族はエトルリア人の古い都市フェルシナを占領し、その周辺に定住しました。後にローマ人がこの地に植民都市を築き、それをボノニア（現在のボローニャ）と呼びました。同様に、ウィンドボナ（現在のウィーン）もボイイ族の住む地域でした。

しかし、ボローニャとその周辺の考古学的証拠は、ポリュビオスとリウィウスの記述とは一部矛盾しています。彼らはボイイ族がエトルリア人を追い出したとしていますが、考古学的証拠は、ボイイ族がフェルシナの町を破壊したり住民を追い出したりせず、単に移り住んでエトルリア人と同化していったことを示唆しています。

ドナウ流域のボイイ族

古代の著作家の解釈とは異なり、ボイイ族はかなり早い時期からパンノニアに定住していたことが判明しており、イタリアから移住してきたのではなく、別系統の部族だったと考えられています。イタリアのボイイ族と同時代のボヘミアのボイイ族は、埋葬儀礼に多くの点で共通点が見られます。

パンノニアのボイイ族は、紀元前2世紀後半にキンブリ族とテウトネス族を撃退したことで歴史に名を残しています。その後、ボイイ族はノーレイア（現在のオーストリア）を攻撃し、一部はヘルウェティイ族と共に西ガリアへの移住を試みました。ガリア戦争では、アレシアの戦いでウェルキンゲトリクス側に加わりました。

また、ボイイ族はハンガリーのドナウ川およびムール川の流域、ブラチスラヴァを中心とする地域にも住み続けていました。紀元前40年ごろ、ダキア人のブレビスタ王に敗れましたが、ローマが紀元8年にパンノニアを完全に征服した際には、ローマに敵対する姿勢を見せませんでした。ボイイ族の居住地域は deserta Boiorum と呼ばれましたが、彼らは根絶されたわけではなく、ドナウ流域長官の支配下に civitas Boiorum et Azaliorum として存在しました。

古代文献におけるボイイ族

プラウトゥスの作品やリウィウスの『ローマ建国史』には、ボイイ族に関する記述が見られます。また、ブラチスラヴァのオッピドゥムに住んでいたボイイ族は、高品質なビアテク銀貨を鋳造しており、ラテン語で王の名と思われる文字を刻んでいました。これはボイイ族が自らについて文字で記した唯一の記録となっています。

ボイイ族は、その名が示すように、戦士として、あるいは牛を飼う民として、中央ヨーロッパの歴史に深く刻まれたケルト部族でした。

もう一度検索