アレクサンドル・タロー

フランス出身のピアニスト、アレクサンドル・タローは、1968年 12月9日にパリで誕生しました。オペラ座のバレエダンサーを母に、バリトン歌手を父に持つ、芸術一家に育ちました。5歳からピアノのレッスンを開始し、音楽の道を歩み始めます。パリ国立高等音楽院で研鑽を積み、卒業後、その才能を開花させていきました。少年時代には作曲にも親しんでいましたが、10代後半からはピアノ演奏に集中するようになります。

彼のキャリアは、数々の国際的な音楽コンクールでの成功によって確固たるものとなりました。マリア・カナルス・バルセロナ国際音楽演奏コンクールで3位、セニガリア国際ピアノコンクール、クロード・カーン国際ピアノコンクールでそれぞれ入賞を果たし、さらに権威あるミュンヘン国際音楽コンクールでは2位を受賞しています。これらの実績は、タローが世界的なピアニストとしての地位を築く上で重要な足がかりとなりました。

演奏家として、タローは世界各地の主要な音楽ホールで喝采を浴びています。アムステルダムのコンセルトヘボウ、パリのシャンゼリゼ劇場、ウィーンの楽友協会といった歴史ある舞台に立ち、観客を魅了してきました。また、リヨン国立管弦楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、チューリヒ・トーンハレ管弦楽団など、著名なオーケストラとの共演も数多く経験しています。エクサン・プロヴァンス音楽祭、エディンバラ国際音楽祭、BBCプロムスといった国際的な音楽祭にも定期的に招かれ、その存在感を示しています。

録音活動も精力的に行っており、ハルモニア・ムンディ、エラート、ヴァージン・クラシックスといった名門レーベルから多数のアルバムをリリースしています。バッハ、ショパン、ラヴェルといった作曲家の作品を中心に、幅広いレパートリーを録音しており、その解釈は高い評価を得ています。

タローの活動はクラシック音楽の枠に留まりません。ダンサーのヨアン・ブルジョワとのコラボレーション映像を手がけたり、フランスの伝説的なシャンソン歌手バルバラへのトリビュート・アルバムを制作したりと、異分野との交流にも積極的です。さらに、2012年にはミヒャエル・ハネケ監督の映画『愛、アムール』に出演し、老夫婦の愛弟子という役柄で俳優デビューを果たしました。これらの多岐にわたる活動は、タローの探求心と豊かな創造性を示しています。

タローの音楽観は、その演奏に深く反映されています。彼はピアノを弾く際に、リズムと歌心を特に重視しており、「人間の声をピアノで奏でたい」「ピアノを人間の声のように歌わせたい」という強い願いを持っています。これは、彼が影響を受けた作曲家への共鳴とも関連しています。

自身にとって「切り離せない」存在として、スカルラッティ、ドビュッシー、ショパンの三人を挙げています。特にクープランとショパンには共通点を見出しており、「鍵盤をうたわせるような作品を書いた」「ピアノをうたわせたいと考えてきた自身の作曲の基本精神に共鳴した」と語っています。その他にも、バッハ、ラモー、ラヴェルを好きな作曲家として挙げており、幅広い時代の作品への深い理解と愛情を持っています。

興味深いことに、タローは自身の自宅にはピアノを置いていません。彼は、自宅に籠って長時間練習するよりも、友人宅などで時間を区切って集中して練習する方が効果的だと考えています。このユニークな習慣も、彼の合理的な一面を表しています。

ピアニストとしては、マルセル・メイエから強い影響を受けています。20歳の時に初めてメイエの録音を聴いて以来、その演奏に魅了され、愛聴し続けていることを明かしています。メイエの芸術は、タローの音楽形成において重要な役割を果たしました。

アレクサンドル・タローは、確かな技術と深い音楽性、そして常に新しい表現を追求する姿勢によって、現代の音楽シーンにおいて独自の輝きを放つピアニストです。その多彩な活動と人間味あふれる音楽は、世界中の聴衆を魅了し続けています。

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