アレクサンドル・チェレプニン

アレクサンドル・チェレプニン：多文化を融合した革新的な作曲家

アレクサンドル・ニコラエヴィチ・チェレプニン（1899年1月20日 - 1977年9月29日）は、ロシア帝国サンクトペテルブルクに生まれ、20世紀を代表する作曲家、ピアニストの一人です。彼の音楽は、ロシア、中央アジア、中国、日本など、様々な文化の影響を受け、独自のスタイルを確立しました。特に、彼が開発した9音音階は、音楽史における重要な貢献として知られています。

生涯

チェレプニンは、5歳から父である作曲家ニコライ・チェレプニンから音楽の手ほどきを受けました。父がバレエ・リュスの指揮者であったことから、幼少期から多くの音楽家たちと交流し、音楽的才能を育みました。18歳でサンクトペテルブルク音楽院に入学しますが、ロシア革命後の1918年、一家はグルジアを経てパリへ亡命しました。

パリでは、作曲家・ピアニストとして本格的に活動を開始し、モーリス・ラヴェル、イーゴリ・ストラヴィンスキー、フランス6人組など、当時の音楽界を代表する人物たちと親交を深めました。1933年、彼は自身の音楽的視野を広げるため、民謡に目を向け、ロシア、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン、ペルシャの民謡を採集しました。

1934年から1937年にかけてはアジアを訪問し、中国や日本で若手作曲家の指導に当たりました。特に日本では、江文也、早坂文雄、伊福部昭など、後の日本音楽界を担う作曲家たちを育成し、「チェレプニン賞」を設立、若手作曲家の作品を「チェレプニン・コレクション」として出版するなど、日本の音楽界に多大な貢献をしました。伊福部昭には「ナショナルである事こそがインターナショナルである」と指導し、この言葉は伊福部の作風の原点となりました。

日中戦争の激化に伴い、妻であるピアニストのミン・リーシェンと共にパリへ戻りましたが、ヴィシー政権下では活動を制限されました。第二次世界大戦終結後の1948年、チェレプニン一家はアメリカへ渡り、1958年にアメリカ市民権を取得。1960年代にはドイツ・グラモフォン(DG)と契約し、自作自演のレコードをリリースしました。その後、アメリカとフランスを往復する生活を送り、1977年、パリの自宅でその波乱に満ちた生涯を終えました。遺体はパリ郊外のサント＝ジュヌヴィエーヴ＝デ＝ボワ・ロシア人墓地に、父ニコライと共に埋葬されています。

作風

チェレプニンの作品は、ロシア、中央アジア、中国、日本など、多岐にわたる文化からの影響が融合している点が特徴です。特に、彼が独自に開発した9音音階（C、D♭、E♭、E、F、G、A♭、A、B）は、彼の作品の核となる要素です。この音組織は日本を離れた後に発明されましたが、彼の音楽に特徴的なモノリズミックで軽快な筆致は、晩年まで変わりませんでした。彼は、自身のリズム語法を「コントラプンクトではなく、インタープンクトだ」と表現し、対位法に馴染みの薄いアジア系の作曲家への配慮を示しました。

来日当初、彼の音楽は「フジヤマ、ゲイシャ趣味」と批判されることもありました。これは、西洋の音楽技法を習得することこそが重要と考える当時の音楽界の風潮に逆らい、日本の民族的音楽語法を取り入れるように弟子たちに勧めたためでした。しかし、近年では彼の作品が再評価されており、伊福部昭ら弟子たちの作品が評価されるにつれて、チェレプニンの音楽も再び注目を集めています。金澤攝、小川典子などの演奏家によって、彼の作品が演奏される機会も増えています。2014年には、オーケストラ・ニッポニカがチェレプニンの交響曲第1番を日本初演するなど、彼の音楽は新たな展開を見せています。

チェレプニンは、ラファエル・クーベリックとのピアノ協奏曲集や、ポール・トルトゥリエらとの室内楽曲集など、数多くの自作自演の録音を残しており、彼の音楽を深く理解する上で貴重な資料となっています。

主な作品

オペラ (全4曲)

バレー (全14曲)

管弦楽曲

アジャンタの壁画 Op.32 (1923年)
ショータ・ルスタヴェリ
交響曲 (全4曲)
交響曲第1番 ホ長調 Op.42 (1927年): 打楽器のみの第2楽章を持つ。
交響曲第2番 変ホ長調 Op.77 (1947年-1951年)
交響曲第3番 嬰ヘ長調『中国交響曲』Op.83 (1952年)
交響曲第4番 ホ長調 Op.91 (1957年)
ロマンティック序曲 Op.67
ロシア舞曲集 (1934年)
交響的行進曲Op.80
組曲Op.87(1953年)
組曲『グルジアーナ』 Op.92 (1959年)
交響的な祈り Op.93 (1959年)
セレナード Op.97 (1964年)

協奏曲

ピアノ協奏曲第1番 Op.12 (1919年)
ピアノ協奏曲第2番 Op.26 (1923年)
ピアノ協奏曲第3番 Op.48 (1932年)
ピアノ協奏曲第4番 Op.78 (1947年)
ピアノ協奏曲第5番 Op.96 (1963年)
ピアノ協奏曲第6番 Op.99 (1965年)
ヴァイオリン、チェロ、ピアノと弦楽合奏のための三重協奏曲　Op.47(1931年、1968年改訂)
ハーモニカ協奏曲 Op.86 (1953年)
チェロと管弦楽のための『グルジア狂詩曲』　Op.25(1922年)

室内楽曲

弦楽四重奏曲 (全2曲)
ピアノ五重奏曲 Op.44 (1927年)
木管五重奏曲 Op.107 (1977年): 最後の作品

ピアノ曲

10のバガテル Op.5
5つの演奏会用練習曲 Op.52 (1934年-1936年)

正教会聖歌（無伴奏声楽）

奉神礼のための六つの混声聖歌 Op. 103（1967年）

家族・親族

父: ニコライ・チェレプニン（1873～1945年）は作曲家。
妻: ミン・リーシェンはピアニスト。
三男: イワン・チェレプニン（1943～1998年）は作曲家・シンセサイザー開発者。

教え子

伊福部昭
江文也
荻原利次
フィリップ・ラミー
ロバート・ムチンスキー
グロリア・コーツ
ジョン・ダウニー

脚注

外部リンク

Biography of Alexander Tcherepnin - The Tcherepnin Society
* アレクサンドル・チェレプニン - Find a Grave

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