アレクサンドル・ドゥーギン

アレクサンドル・ドゥーギンとは

アレクサンドル・ゲーリエヴィチ・ドゥーギン（Александр Гельевич Дугин）は、1962年1月7日、モスクワで生まれたロシアの政治活動家、地政学者、政治思想家、哲学者です。ソ連崩壊後のロシアにおいて、ネオ・ユーラシア主義を提唱し、国内外の政治に大きな影響を与えています。モスクワ大学で教授を務めた経験を持ち、クレムリンにも影響力を持つ人物として知られています。

生い立ちと初期の活動

ドゥーギンは、ソ連軍参謀本部情報総局（GRU）の中将を父に、医師を母に持つ家庭に生まれました。1979年にモスクワ航空研究所（MAI）に入学しますが、2年で除籍されています。1970年代には、作家ユーリ・マムレーエフのユジンスキーサークルに出入りし、神秘主義思想やナチズムのオカルト論に傾倒しました。その後、フランスの「新しい右翼」とも接触しています。

1980年代には反体制活動家として活動していましたが、ソ連崩壊後はアレクサンドル・ソルジェニーツィンのように幻滅し、ヨシフ・スターリンの再評価とソ連の再興を掲げる保守派へと転じました。1990年代には、同じく元反体制活動家であるエドゥアルド・リモノフと共に、1920年代に白系ロシア人の間で流行したユーラシア主義の復活を掲げ、国家ボリシェヴィキ党（当初は国家ボリシェヴィキ戦線）を結成しました。この党は、ジョージ・オーウェルの小説「1984年」に登場する国家「ユーラシア」の「ネオ・ボルシェヴィズム」に着想を得たとも評されています。

政治活動とネオ・ユーラシア主義

ドゥーギンは、ボリス・エリツィン大統領の打倒を目指す野党連合「救国戦線」に参加した後、リモノフとの対立から離脱し、ロシア政府のエフゲニー・プリマコフやウラジーミル・プーチンを支持するようになりました。また、ロシア連邦議会でユーラシア主義を推進していたゲンナジー・セレズニョフ下院国家会議議長の顧問に就任し、ロシア政界との関わりを深めました。

2002年にはユーラシア党、2005年にはユーラシア青年連合を設立し、ネオ・ユーラシア主義を国際的な運動にするための活動を続けています。2018年には、中国復旦大学の中国研究院の上級研究員に任命され、中国との関係も強化しています。

ドゥーギンの主張は、自由民主主義、資本主義、個人主義、グローバリゼーションといった西側諸国のリベラルな価値観や理念を強く批判するものです。彼は、20世紀に衰退した共産主義とファシズム、そして21世紀に標準化した自由主義に代わる「第四の政治理論」として、ネオ・ユーラシア主義を提唱しています。彼の地政学的な視点では、世界は海洋国家と大陸国家に分けられ、アメリカ主導の海洋秩序に対抗するために、ロシアを中心とした大陸秩序を構築する必要性を説いています。

ドゥーギンは、北大西洋条約機構（NATO）のような欧米の「大西洋主義」政策は、ロシアの封じ込めとリベラルな価値観の押し付けを狙いとするものだと批判しています。これに対抗するため、ロシアはユーラシア大陸に多極体制を築く外交戦略を取るべきだと主張しています。また、ユーラシア帝国建設のためには、領土問題を避け、NATO陣営のドイツにカリーニングラードを返還してヨーロッパ全体を「フィンランド化」させ、中東ではイランと同盟を結んでトルコを揺さぶり、アジアでは日本にクリル列島を譲渡して反米を煽動し、中国の南下を支援して米国の同盟国と対立させるべきだという戦略を提唱しています。

かつては中国分割論者であったドゥーギンですが、現在は中国の趙汀陽らが提唱する「天下体系」（天下主義）を支持し、中露が共同で欧米に対抗すべきだと考えています。彼は、上海協力機構（SCO）をNATOに対抗できる多極的なブロックとして重視しています。

家族と悲劇

ドゥーギンは、LGBTの社会運動家エフゲニア・デブリンスカヤと結婚し、長男アルトゥールをもうけました。アルトゥールはロックミュージシャンとして活動していますが、2022年にカナダ当局から経済制裁を受けています。その後、哲学者ナタリア・メレンティエワと再婚し、長女ダリア・ドゥギナ（筆名：ダリア・プラトーノワ）を授かりました。

ダリアは、父親の広報担当者として活動し、プーチン政権を支持するコメンテーター・コラムニストとしても活躍していました。2022年のロシアによるウクライナ侵攻を支持し、国営テレビにも出演していました。また、ウェブサイトUnited World Internationalの編集長として、ウクライナのNATO加盟は「滅び」を意味するという記事に貢献したとして、アメリカから経済制裁を受けています。

2022年8月20日、ダリアはモスクワ郊外で自動車爆破事件により死亡しました。この車はドゥーギン本人のものであり、当初はドゥーギンが乗る予定でしたが、直前に別の車に乗り換えたため、暗殺の標的はドゥーギンであった可能性が高いとされています。この事件は、ドゥーギンの思想と活動に対する国内外の反発を浮き彫りにしました。

まとめ

アレクサンドル・ドゥーギンは、ネオ・ユーラシア主義という独自の思想を提唱し、ロシア内外の政治に大きな影響を与えている人物です。その主張は、西側諸国のリベラルな価値観や秩序を批判し、ロシアを中心とした多極世界秩序の構築を目指すものです。彼の思想と活動は、現代の国際政治を理解する上で重要な要素となっています。

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