アレグザンダー・ハーディング (第2代ペンズハーストのハーディング男爵)

アレグザンダー・ハーディング：二代の国王を支えた廷臣

アレグザンダー・ヘンリー・ルイス・ハーディング（1894年5月17日 - 1960年5月29日）は、イギリスの貴族であり、第2代ペンズハーストのハーディング男爵でした。彼は、国王エドワード8世とジョージ6世という、二代の国王の秘書官を務めたことで知られています。

生い立ちと軍歴

ハーディングは、外交官チャールズ・ハーディングの次男としてパリで生まれました。父はロシア大使や外務次官、インド総督を歴任した人物です。ハーディングはハロー校とケンブリッジ大学で教育を受けました。第一次世界大戦が勃発すると、兄と共に従軍しましたが、兄は1914年に戦死しました。ハーディング自身も近衛歩兵連隊に所属し、西部戦線で負傷しましたが、その功績により殊功勲章を授与されました。

王室との関わり

1920年、ハーディングは国王ジョージ5世の秘書官補として王室入りしました。彼は、ジョージ5世や初代スタンフォード男爵（国王秘書官）から王室の公務について学び、その能力を発揮しました。最初の5年間はスタンフォード卿を、次の11年間は初代ウィグラム男爵を補佐しました。1935年に陸軍を退役しました。

エドワード8世の退位

ハーディングが仕えたジョージ5世と、その息子であるエドワード王太子との関係は良好ではありませんでした。王太子は、アメリカ人女性ウォリス・シンプソン夫人との関係を深め、ジョージ5世はこれを快く思っていませんでした。ジョージ5世の死後、エドワード8世が即位すると、ウィグラム男爵が引き続き秘書官を務めましたが、やがて辞任し、ハーディングが後任となりました。

ハーディングが国王秘書官に就任した1936年、ウォリス夫人との結婚問題は、大きな波紋を呼んでいました。ハーディングはボールドウィン首相に進言を求め、政府はウォリス夫人の離婚訴訟を取り下げるよう要求しました。しかし、エドワード8世はこれを拒否し、事態は泥沼化しました。ハーディングは、国王に結婚を強行すれば内閣総辞職を招くと警告しましたが、エドワード8世は聞き入れませんでした。結局、エドワード8世は退位を選び、ウィンザー公となりました。

ジョージ6世の秘書官として

エドワード8世の退位後、ハーディングは新国王ジョージ6世の秘書官として仕え続けました。ウィンザー公がウォリス夫人と結婚する際、ハーディングは国教会の祝福がない結婚式には王族の出席はありえないと主張しました。また、ウィンザー公の海外訪問については、現地のイギリス外交官に歓待は不要と訓令しました。

この頃、イギリスの政界では宥和政策が主流となっていましたが、ハーディングはこれに批判的でした。ジョージ6世は宥和政策を認めていましたが、ハーディングは徹底抗戦を主張しました。1940年、チェンバレン内閣が辞職した際、ハーディングはジョージ6世に進言し、ウィンストン・チャーチルを後任に据えるよう促しました。最終的にチャーチルが首相となり、イギリスは第二次世界大戦へと突入しました。

国王との不和と辞任

ハーディングはジョージ6世の国王秘書官として重要な役割を果たしましたが、性格的に相性が良くありませんでした。特に宥和政策に対する意見の相違や、国王が大臣とのブリーフィングを怠る点などで不満を抱いていました。1943年、ハーディングは国王の北アフリカ訪問に同行しましたが、その際に秘書官補との間で衝突し、辞任を申し出ました。ジョージ6世はこれを承認し、ハーディングは国王秘書官の職を辞しました。

退任後と評価

国王秘書官を退任後、ハーディングは聖バーソロミュー病院やキングズ・スクールの理事を務めました。1944年に父が亡くなり、男爵位を継承しました。1960年に肝臓癌で死去しました。

ハーディングの評価は、歴史家によって様々ですが、彼の誠実さと困難な状況での功績は再評価されています。君塚直隆教授は、エドワード8世に責任があるとしながらも、ハーディングは国王秘書官という重責を担うには荷が重すぎたと述べています。

栄典と爵位

ハーディングは、殊功勲章、バス勲章ナイト・グランド・クロス、ロイヤル・ヴィクトリア勲章ナイト・グランド・クロス、メリット勲章など、数々の勲章を受勲しています。また、1944年に父の死により、第2代ペンズハーストのハーディング男爵となりました。

私生活

1921年、ヘレン・ガスコイン＝セシルと結婚し、一男二女をもうけました。ヘレン夫人はエリザベス王妃（ジョージ6世妃）と親友でした。

ハーディングの生涯は、激動の時代における王室の舞台裏を描き出す上で、重要な要素となっています。彼の誠実さと責任感は、後世に語り継がれるべき教訓です。

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