アレッサンドロ・ファルネーゼ (枢機卿)

アレッサンドロ・ファルネーゼ：枢機卿、外交官、そして芸術の庇護者

アレッサンドロ・ファルネーゼ（1520年10月5日 - 1589年3月2日）は、16世紀イタリアにおいて、枢機卿、外交官、そして芸術の庇護者として多岐にわたる活動を行った人物です。彼はローマ教皇パウルス3世の孫であり、初代パルマ公ピエール・ルイージ・ファルネーゼの長男として生まれました。その卓越した才能と影響力から「大枢機卿」と呼ばれ、当時の政治や文化に大きな足跡を残しました。

生涯

ヴァレンターノで生まれたアレッサンドロは、ボローニャで学んだ後、パルマの行政官となりました。1534年、祖父であるパウルス3世が教皇に選出されると、彼は従兄のグイド・アスカニオ・スフォルツァと共に枢機卿に任命されました。その後、サンタンジェロの助祭枢機卿など多くの称号を授与され、教皇領副長官にも任命されました。これにより、約30の司教区の管理を任され、莫大な聖職禄と財産を得て、権勢を誇りました。この背景には、当時の教皇が親族を要職に就けるネポティズムの慣習がありました。

長男でありながら聖職に就いた理由は、教皇が就任直後に親族2人を枢機卿に任命するのが慣例だったためです。次男オッターヴィオがまだ幼かったため、アレッサンドロが選ばれたのです。しかし、彼はこの決定に不満を抱いていました。聖職者になったことで、父からの相続権が弟に移ったからです。この世俗的な野心を危惧した祖父は、アレッサンドロを教皇の地位で釣ろうとしましたが、次弟ラヌッチョが枢機卿に任命されたことにも反発するなど、兄弟への嫉妬を露わにしました。1536年にはシチリアの司教となり、当地に大学を創設しました。

外交官としては、教皇特使として1539年から1541年まで神聖ローマ皇帝カール5世とフランス王フランソワ1世の仲裁に奔走しました。また、トリエント公会議の開催準備を進めました。カール5世がシュマルカルデン同盟との戦いで教皇の援助を求めた際には、1545年に教皇からの軍資金をヴォルムスへ届け、1546年には帝国軍に同行しました。

1566年の教皇選挙では、カルロ・ボッロメーオ枢機卿と共にピウス5世を支持しました。その後、1585年まで7回の教皇選挙に全て落選しましたが、イエズス会を擁護し、ジェズ教会の建設を援助しました。また、ローマのファルネーゼ宮殿の改築やカプラローラのファルネーゼ宮殿の建設、教会の補修などにも尽力しました。これらの建築プロジェクトでは、建築家ジャコモ・バロッツィ・ダ・ヴィニョーラを起用し、自身の財力を芸術や慈善事業にも惜しみなく注ぎました。1589年、ローマで68歳で亡くなりました。

芸術家のパトロンとして

アレッサンドロは、芸術の庇護者としても重要な役割を果たしました。1542年頃からティツィアーノ・ヴェチェッリオと接触し、1545年から1546年にかけてローマに滞在させました。その結果、有名な『教皇パウルス3世とその孫たち』が制作されました。しかし、ティツィアーノをローマに招聘する際、報酬の約束を先延ばしにし、聖職禄を餌に利用し、結果としてティツィアーノを騙す形で肖像画を受け取ったという逸話も残っています。ティツィアーノはその後、二度とローマを訪れることはありませんでした。

建築家ヴィニョーラとは、彼がボローニャでサン・ペトロニオ聖堂の建設工事に従事していた頃から親交があり、1559年からカプラローラのファルネーゼ宮殿の建設を任せました。同時期にカプラローラの再開発にも着手し、町のメインストリートの突き当りに宮殿を配置するなど、都市計画にも力を注ぎました。1568年からはジェズ教会の設計もヴィニョーラに任せ、彼が亡くなるまで庇護を続けました。ヴィニョーラは著書『建築の五つのオーダー』をアレッサンドロに献呈しています。しかし、ヴィニョーラの死後、アレッサンドロはジェズ教会の設計を別の建築家ジャコモ・デッラ・ポルタに任せ、ヴィニョーラの設計案を変更しました。理由は不明です。

建築や工芸には深い関心を示しましたが、絵画には比較的無関心であったとされます。エル・グレコを宮殿に寄寓させたものの、1572年に解雇しました。解雇理由は不明ですが、エル・グレコ自身も理由に心当たりがないと訴えています。一方で、彫刻家グリエルモ・デッラ・ポルタに祖父の墓廟を制作させましたが、女性の裸体彫像が検閲に引っかかることを懸念し、一時的に覆い隠すことを検討したというエピソードも残っています。しかし、教皇グレゴリウス13世が墓廟を気に入ったため、問題は起こりませんでした。

子女

アレッサンドロには、庶子としてクレーリア・ファルネーゼという娘がいました。彼女は「天使のように清らか」と評され、ローマの名家出身のジョヴァン・ジョルジオ・チェザリーニと結婚し、その後マルコ3世・ピオ・ディ・サヴォイアと再婚しました。

アレッサンドロ・ファルネーゼは、枢機卿、外交官、芸術の庇護者として、その多岐にわたる活動を通じて16世紀のイタリアに大きな影響を与えた人物です。彼の生涯は、当時の政治、文化、芸術の複雑な関係を示す好例と言えるでしょう。

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