アワモリ君西へ行く

1961年12月24日、東宝系で公開された映画『アワモリ君西へ行く』は、軽快なリズムと笑いに満ちた青春コメディです。アワモリくんシリーズの第3作にして最終作であり、古澤憲吾監督作品としては初のカラー映画という点でも注目に値します。キャッチコピーは「恋と歌の新天地 なんでもやらかせ俺たちゃ若いぞ」と、若々しいエネルギーに満ち溢れています。

本作は、アワモリ君の親友であるカバ山が大阪の支社へ転勤することになり、アワモリ君も商売のノウハウを学ぶため大阪へ同行するところから物語が始まります。大都会大阪を舞台に、アワモリ君たちは予想だにしない様々な出来事に遭遇し、次々と騒動を巻き起こします。

『アワモリ君西へ行く』最大の特徴は、その音楽性の高さにあります。何と24曲もの挿入歌が劇中に登場し、坂本九やジェリー藤尾といった当時のトップ歌手たちが、それぞれの場面で歌声を披露します。歌声はストーリーの展開を盛り上げ、視聴者の感情を揺さぶる重要な役割を果たしています。

古澤監督の演出も特筆すべき点です。劇中では、突如としてミュージカルシーンが始まったり、爆発的な場面転換があったりと、予測不可能な展開が続きます。また、「狭い空間をステージに変える」という独特の演出は、後の『ニッポン無責任時代』へと受け継がれ、クレージー映画の成功にも貢献することになるでしょう。この演出は、当時の観客に新鮮な驚きを与え、映画全体のテンポと魅力を高めています。

キャスト陣も豪華です。アワモリ君役には坂本九、カバ山役にはジェリー藤尾と、人気歌手が主要キャストを担っています。さらに、関西のお笑い界を代表する夢路いとし・喜味こいし、茶川一郎、藤田まことといったベテラン芸人たちが脇を固め、独特の笑いを生み出しています。藤田まこと演じる支店長は、当時藤田が上方コメディ番組で発した「効いてきた！」というセリフも劇中で使用しており、当時の視聴者には懐かしさと笑いを誘ったことでしょう。

その他にも、宝塚映画の常連である高島忠夫を始め、森山加代子、有島一郎、丘寵児、都家かつ江、左卜全、浜美枝、筑波久子、初音礼子、渡辺トモコ、柳川慶子、双葉京子、中北千枝子、鷹取まき子、富士野章介、石川進、増田多夢、佐野修、上野保夫といった豪華な俳優陣が出演しています。

本作は、単なるコメディ映画にとどまらず、高度な音楽性と演出、そして豪華なキャスト陣によって支えられた、見応えのある作品です。当時の日本のエンターテインメントシーンを反映した、貴重な作品として評価されるべきでしょう。また、本作が公開された1961年12月31日には、同時上映作品として坂本九も出演する『喜劇 駅前弁当』が上映され、翌1962年1月2日からは『椿三十郎』が上映されるなど、当時の映画興行事情を垣間見れる要素も含まれています。

『アワモリ君西へ行く』は、日本の映画史における重要な作品の一つとして、後世に語り継がれるべき作品と言えるでしょう。

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