アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ジョヴァネ
アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ジョヴァネ（1484年4月12日 - 1546年8月3日）は、盛期ルネサンス期に活躍したイタリアの建築家であり、軍事技術者としても名を馳せました。サンガッロ一族の中でも特に傑出した人物として知られ、ラファエロ・サンティの死後、ローマにおけるルネサンス建築の理念を継承し、主導的な役割を果たしました。
ジョルジョ・ヴァザーリの記録によれば、アントニオはフィレンツェで樽職人の息子として生まれたとされていますが、現在ではアントニオ・コルディアーニが父親であるという説が有力です。彼の家系は建築家一族であり、祖父のフランシスコ・ジャンベルティも建築家でした。また、母親はジュリアーノ・ダ・サンガッロとアントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ヴェッキオの妹であり、叔父も有名な建築家であったため、区別するために叔父を「イル・ヴェッキオ」（年長者）、甥を「イル・ジョヴァネ」（年少者）と呼びました。
アントニオは、まず叔父であるジュリアーノから建築の指導を受けましたが、ジュリアーノがフィレンツェへ帰郷した後は、ドナト・ブラマンテに製図技師として雇われました。1507年にはサンタ・マリア・ディ・ロレート聖堂の建設を任されましたが、資金難のために工事は進まず、彼が手掛けたのは基礎部分のみでした。その後、枢機卿アレッサンドロ・ファルネーゼ（後の教皇パウルス3世）の依頼で、ローマのパラッツォ・ファルネーゼの基本計画や、カプラローラのパラッツォ・ファルネーゼの建設にも携わりました（後にジャコモ・バロッツィ・ダ・ヴィニョーラが改築）。初期の作品として良好な状態で残っているものには、バルトロメオ・フェッラティーノによって建設されたピアッツァ・ダメーリアの邸宅があります。
ブラマンテの死後、レオ10世によってラファエロ・サンティ、ジュリアーノ・ダ・サンガッロ、フラ・ジョコンドが主任建築家に任命されました。しかし、ジュリアーノがフィレンツェへ帰郷し、フラ・ジョコンドがローマを去ったため、その後任としてアントニオがバチカンのサン・ピエトロ大聖堂建設に加わりました。1510年から現場で働いていたアントニオは、1516年にラファエロの半分の報酬という条件で、正式に主任建築家に任命されました。しかし、ラファエロとの関係は良好ではなく、そのために大聖堂の建設は停滞しました。
1520年にラファエロが亡くなると、アントニオはサン・ピエトロ大聖堂の主任建築家に任命され、バルダッサーレ・ペルッツィが協力者として招かれました。アントニオが作成したサン・ピエトロ大聖堂の模型は、現在バチカン美術館に所蔵されていますが、そのデザインは後にミケランジェロによって厳しく批判されました。しかし、レオ10世の後を継いだハドリアヌス6世が芸術を軽視したため、アントニオの計画による大聖堂建設は全く進展しませんでした。ハドリアヌス6世の在位期間中、アントニオは重要ではない建物の改修や改築に携わるにとどまりました。
教皇にクレメンス7世が選出されると、建築工事は再び活発になりました。しかし、1527年のローマ略奪によって、ローマにおける建築活動は完全に停止しました。クレメンス7世は教皇領の防備を重視し、アントニオと息子のフランチェスコ・ダ・サンガッロを各地に派遣して、パルマ、ピアチェンツァ、アンコーナなどの城壁や市壁、城塞の改修を行わせました。また、フィレンツェのフォルテッツァ・ダ・バッソの建設にも携わりました。
クレメンス7世の死後、アレッサンドロ・ファルネーゼがパウルス3世として即位すると、アントニオはさらに重要な仕事を任されるようになりました。その内容は、カストロ市壁の構築やローマ市壁の再整備など、構造補強や城塞構築に関わる技術的・工学的なものが中心でした。
1531年には、ラファエロが手掛けたベルヴェデーレ東側のロッジアが構造的な欠陥により33メートルにわたって崩落したため、1546年からその補強と修復工事を担当しました。また、同年には宮殿内部の大改装に着手し、システィーナ礼拝堂の補強やサーラ・レッジアの建設計画（着工は1560年）も進めました。しかし、晩年のアントニオはミケランジェロと対立することが多く、そのため中断された工事も少なくありませんでした。パラッツォ・ファルネーゼの工事も中断していたのですが、新たに行われた設計競技でアントニオの計画案は採用されず、ミケランジェロの案が採用されました。さらに、サン・ピエトロ大聖堂の建築家としてヤーコポ・メリギーノが加わったことで、アントニオの報酬は半減することになりました。
晩年、彼のデザインは支持されなくなっていたようですが、熱病に倒れてテルニで亡くなりました。その後、遺体はローマに移され、盛大な葬儀が執り行われました。
1510年代: パラッツォ・バルダッシーニ（ローマ）
1517年起工: パラッツォ・ファルネーゼ（ローマ）
1518年起工: サンタ・マリア・ディ・モンセッラート聖堂（ローマ）
1519年完成: サンタ・マリア・イン・モンテ・ドーロ聖堂（モンテ・フィアスコーニ）
1530年起工: 教皇庁造幣局のファサード（現サント・スピリト銀行、ローマ）
1530年起工: フォルテッツァ・ダ・バッソ（フィレンツェ）
* 1546年起工、1549年完成: ベルヴェデーレ宮殿の東ロッジア改修工事
アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ジョヴァネは、その卓越した建築技術と軍事技術によって、ルネサンス建築の発展に大きく貢献した人物として、後世に名を残しています。
生い立ちと初期の活動
ジョルジョ・ヴァザーリの記録によれば、アントニオはフィレンツェで樽職人の息子として生まれたとされていますが、現在ではアントニオ・コルディアーニが父親であるという説が有力です。彼の家系は建築家一族であり、祖父のフランシスコ・ジャンベルティも建築家でした。また、母親はジュリアーノ・ダ・サンガッロとアントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ヴェッキオの妹であり、叔父も有名な建築家であったため、区別するために叔父を「イル・ヴェッキオ」（年長者）、甥を「イル・ジョヴァネ」（年少者）と呼びました。
アントニオは、まず叔父であるジュリアーノから建築の指導を受けましたが、ジュリアーノがフィレンツェへ帰郷した後は、ドナト・ブラマンテに製図技師として雇われました。1507年にはサンタ・マリア・ディ・ロレート聖堂の建設を任されましたが、資金難のために工事は進まず、彼が手掛けたのは基礎部分のみでした。その後、枢機卿アレッサンドロ・ファルネーゼ（後の教皇パウルス3世）の依頼で、ローマのパラッツォ・ファルネーゼの基本計画や、カプラローラのパラッツォ・ファルネーゼの建設にも携わりました（後にジャコモ・バロッツィ・ダ・ヴィニョーラが改築）。初期の作品として良好な状態で残っているものには、バルトロメオ・フェッラティーノによって建設されたピアッツァ・ダメーリアの邸宅があります。
サン・ピエトロ大聖堂での活動
ブラマンテの死後、レオ10世によってラファエロ・サンティ、ジュリアーノ・ダ・サンガッロ、フラ・ジョコンドが主任建築家に任命されました。しかし、ジュリアーノがフィレンツェへ帰郷し、フラ・ジョコンドがローマを去ったため、その後任としてアントニオがバチカンのサン・ピエトロ大聖堂建設に加わりました。1510年から現場で働いていたアントニオは、1516年にラファエロの半分の報酬という条件で、正式に主任建築家に任命されました。しかし、ラファエロとの関係は良好ではなく、そのために大聖堂の建設は停滞しました。
1520年にラファエロが亡くなると、アントニオはサン・ピエトロ大聖堂の主任建築家に任命され、バルダッサーレ・ペルッツィが協力者として招かれました。アントニオが作成したサン・ピエトロ大聖堂の模型は、現在バチカン美術館に所蔵されていますが、そのデザインは後にミケランジェロによって厳しく批判されました。しかし、レオ10世の後を継いだハドリアヌス6世が芸術を軽視したため、アントニオの計画による大聖堂建設は全く進展しませんでした。ハドリアヌス6世の在位期間中、アントニオは重要ではない建物の改修や改築に携わるにとどまりました。
ローマ略奪とその後
教皇にクレメンス7世が選出されると、建築工事は再び活発になりました。しかし、1527年のローマ略奪によって、ローマにおける建築活動は完全に停止しました。クレメンス7世は教皇領の防備を重視し、アントニオと息子のフランチェスコ・ダ・サンガッロを各地に派遣して、パルマ、ピアチェンツァ、アンコーナなどの城壁や市壁、城塞の改修を行わせました。また、フィレンツェのフォルテッツァ・ダ・バッソの建設にも携わりました。
クレメンス7世の死後、アレッサンドロ・ファルネーゼがパウルス3世として即位すると、アントニオはさらに重要な仕事を任されるようになりました。その内容は、カストロ市壁の構築やローマ市壁の再整備など、構造補強や城塞構築に関わる技術的・工学的なものが中心でした。
晩年と遺産
1531年には、ラファエロが手掛けたベルヴェデーレ東側のロッジアが構造的な欠陥により33メートルにわたって崩落したため、1546年からその補強と修復工事を担当しました。また、同年には宮殿内部の大改装に着手し、システィーナ礼拝堂の補強やサーラ・レッジアの建設計画（着工は1560年）も進めました。しかし、晩年のアントニオはミケランジェロと対立することが多く、そのため中断された工事も少なくありませんでした。パラッツォ・ファルネーゼの工事も中断していたのですが、新たに行われた設計競技でアントニオの計画案は採用されず、ミケランジェロの案が採用されました。さらに、サン・ピエトロ大聖堂の建築家としてヤーコポ・メリギーノが加わったことで、アントニオの報酬は半減することになりました。
晩年、彼のデザインは支持されなくなっていたようですが、熱病に倒れてテルニで亡くなりました。その後、遺体はローマに移され、盛大な葬儀が執り行われました。
主な作品
1510年代: パラッツォ・バルダッシーニ（ローマ）
1517年起工: パラッツォ・ファルネーゼ（ローマ）
1518年起工: サンタ・マリア・ディ・モンセッラート聖堂（ローマ）
1519年完成: サンタ・マリア・イン・モンテ・ドーロ聖堂（モンテ・フィアスコーニ）
1530年起工: 教皇庁造幣局のファサード（現サント・スピリト銀行、ローマ）
1530年起工: フォルテッツァ・ダ・バッソ（フィレンツェ）
* 1546年起工、1549年完成: ベルヴェデーレ宮殿の東ロッジア改修工事
アントニオ・ダ・サンガッロ・イル・ジョヴァネは、その卓越した建築技術と軍事技術によって、ルネサンス建築の発展に大きく貢献した人物として、後世に名を残しています。
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