アントン (ジャライル部)

アントンの生涯とその政治的影響

アントン（1245年 - 1293年）は、モンゴル帝国の強大な時代において第5代皇帝であるクビライ・カーンに仕えた宰相である。彼はモンゴル帝国の改革に大きく寄与し、最も信頼された政策立案者の一人となった。彼のフルネームは漢字で「安童」と書かれ、歴史的資料でもしばしば言及されている。

アントンは、チンギス・カンの部族のジャアト・ジャライルの出身で、ムカリ国王家の血を引く重要な家系に生まれた。彼の母はチンギス・カンの第一夫人ボルテの姪であり、その関係からも彼の政治的影響力の基盤が形成されたことが理解できる。彼は13歳でケシクテイに入り、早熟な才能を発揮する。

政治的キャリアの始まり

アントンは、クビライからの信任を受け、彼の側近としてさまざまな政治的任務を遂行。特に、1265年には光禄大夫、中書右丞相に任命され、食邑を4千戸にまで増加させるなど、その地位は急速に確立していった。彼の政治的手腕は、クビライの帝位継承戦争においても発揮され、アリク・ブケ側に付いた者たちへの寛大な処分を提案したことで、クビライから高く評価される。

その後、アントンは平章政事であるアフマド・ファナーカティーと対立するも、1274年に彼の不正を暴露し失脚させるなど、敵対者に対しても大胆に行動した。

軍事的関与と反乱

1275年、彼は皇太子チンキムや北平王ノムガンと共にカイドゥ討伐に向かう。この行動は、彼の軍事的役割をも示しており、モンゴル内部の権力構造を平和的に維持するための調停者としての役割が期待されるが、数年後には「シリギの乱」に巻き込まれることとなる。

この反乱は、モンケ家の四男シリギが他の王族と共謀して起こしたものであり、アントンはノムガンやココチュと共に捕らえられ、一時的に彼の権力は失われるが、その後も立ち直る機会を得る。

復職と晩年

アントンは1284年に大都に帰還し、再び右丞相に復職する。しかし、1285年には盧世栄の不正を暴露し、失脚させることで再び影響力を持つ。しかし、彼は新たに平章政事に就任したサンガとの対立により、次第にその権威が失墜していく。

1291年、ついには右丞相の地位を退くこととなり、彼にとって長い政治的キャリアが幕を閉じる。アントンの死後も彼の影響力は続き、モンゴル帝国の歴史において重要な役割を果たした政治家として記憶され続ける。彼の存在は、モンゴルの歴史を理解する上で欠かせない要素となっている。彼の生涯は、政治の舞台がどのように機能するのか、そしてそれが内戦や権力争いによってどのように揺れ動くかを物語っている。

参考文献

• - 長沢和俊「アントン」（『アジア歴史事典 1』、平凡社、1984年）
• - 原田理恵「元朝の木華黎一族」（『山根幸夫教授追悼記念論叢 明代中国の歴史的位相 下巻』、汲古書院、2007年）
• - 『元史』巻126列伝13安童伝
• - 『新元史』巻119列伝16安童伝
• - 『蒙兀児史記』巻87列伝69安童伝
• - 『国朝名臣事略』巻1丞相東平忠憲王

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