アンドリュー・ゴールド

アンドリュー・ゴールド：LAサウンドを彩ったマルチプレイヤー

アンドリュー・ゴールド（1951年8月2日 - 2011年6月3日）は、アメリカ合衆国のミュージシャン、シンガーソングライター、レコード・プロデューサー、そしてマルチプレイヤーとして、多岐にわたる才能を発揮しました。特に1970年代のロサンゼルスにおけるポップ・ロック・シーンにおいて、彼はそのサウンド形成に大きな影響を与えました。

音楽の血筋

ゴールドは、1951年にカリフォルニア州バーバンクに生まれました。彼が音楽の道に進んだのは、両親がショービジネスの世界に深く関わっていたからです。母親のマーニ・ニクソンは、映画『ウェスト・サイド物語』、『王様と私』、『マイ・フェア・レディ』といった名作で主演女優の歌唱部分を吹き替えた著名な歌手でした。一方、父親のアーネスト・ゴールドは、オーストリア出身で、1960年の映画『栄光への脱出』の音楽でアカデミー作曲賞を受賞した作曲家です。音楽的な環境で育ったゴールドは、13歳で作曲を始め、16歳になる頃にはイギリスに渡り、ポリドール・レコードとのレコーディング契約を獲得しています。この初期の活動として、友人のチャーリー・ヴィリエと共に「ヴィリエ・アンド・ゴールド」名義でシングル「Of All the Little Girls」を1967年にリリースしました。

リンダ・ロンシュタットとの出会い、そしてソロでの成功

1970年代初頭、ゴールドはミュージシャン、ソングライター、プロデューサーとして本格的に活動を開始します。彼はロサンゼルスを拠点とするバンド、ブリンドルにも参加し、シングルを発表しました。そして、彼のキャリアにとって重要な出会いとなったのが、リンダ・ロンシュタットです。彼はロンシュタットの1974年の画期的なアルバム『悪いあなた』や、その後の作品において、マルチプレイヤーおよびアレンジャーとして中心的な役割を担いました。ロンシュタットのヒット曲「悪いあなた」、「いつになった愛されるのかしら」、「ヒート・ウェイヴ」など、多くの楽曲で彼は様々な楽器を演奏しています。1973年から1977年にかけてロンシュタットのバンドにレギュラーメンバーとして在籍した後、彼はソロアーティストとしての道を歩み始めました。

1975年、アルバム『アンドリュー・ゴールド・デビュー』でソロデビュー。翌年リリースのセカンド・アルバム『自画像』からは、彼の代表曲となる「ロンリー・ボーイ」が生まれ、1977年6月には全米シングルチャートで7位を記録する大ヒットとなりました。

1978年のサード・アルバム『幸福を売る男』からは、「気の合う二人」が全米チャートで25位を記録。この曲は後に、コメディドラマ『ゴールデン・ガールズ』のテーマ曲として、ゴールド自身のバージョンではないものの、広く親しまれることになります。また、同アルバムに収録されていた「彼女に首ったけ」は、全英シングルチャートで5位を獲得し、イギリスでの彼の最大のヒットとなりました。この曲には、友人のフレディ・マーキュリーがクレジットなしでバックグラウンド・ボーカルとして参加していたと言われています。

この時期、ゴールドはアート・ガーファンクルのヒット曲「君は瞳ゆえに」で多くの楽器を演奏したり、エリック・カルメンのアルバムにもギタリストとして参加するなど、他のアーティストの作品にも積極的に関わっていました。さらに、イーグルスのツアーに参加したり、ジャクソン・ブラウンやジェームス・テイラーとスタジオやステージを共にしたり、ジョニ・ミッチェルのアルバム『ブルー』ではセカンド・エンジニアを務めるなど、当時のウェストコースト・シーンを代表するミュージシャンたちとの幅広い交流がありました。

WAX、プロデュース、そして後世への影響

1980年代に入ると、ゴールドの活動はさらに多様化します。1981年には、イギリスの人気バンド10ccのアルバムに楽曲提供や演奏で関わったことがきっかけとなり、10ccのメンバーであるグレアム・グールドマンと親交を深めます。10cc解散後の1983年末、ゴールドとグールドマンは新ユニット「WAX」を結成。このプロジェクトは国際的な成功を収め、特にイギリスでは「Right Between the Eyes」や、彼らの最大のヒット曲「Bridge to Your Heart」などがヒットしました。WAXとしての活動は1990年で一旦区切りとなりますが、二人はその後も楽曲制作で協力関係を続けました。

1990年代以降、ゴールドはプロデューサーやソングライターとしての活動に重点を置くようになります。シェールのヒットアルバムへの参加、トリーシャ・イヤーウッドやワイノナ・ジャッドといったカントリーアーティストへの楽曲提供とプロデュース、セリーヌ・ディオンへの楽曲制作・プロデュースなど、ジャンルを超えて才能を発揮しました。映画『スターマン/愛・宇宙はるかに|スターマン_愛・宇宙はるかに』では、エヴァリー・ブラザーズの「夢を見るだけ」のカバーをアレンジしています。また、日本では矢沢永吉のアルバム『E'』をプロデュースしたことでも知られています。

自身の活動としては、かつてのバンド仲間とブリンドルを再結成し、初のフルアルバムをリリースしました。また、児童向けのハロウィンソング集『Andrew Gold's Halloween Howls』を発表。このアルバムに収録された「Spooky Scary Skeletons」は、発表から十数年を経た2010年代にインターネットミームとして突如として人気に火がつき、YouTubeやTikTokで爆発的な再生回数を記録するなど、予期せぬ形で彼の音楽が新たな世代に届くこととなりました。1997年には「The Fraternal Order Of The All」名義で、1960年代のサイケデリック・ミュージックへのトリビュートアルバム『Greetings from Planet Love』をリリースするなど、自身の音楽的ルーツへの敬意も示しています。テレビドラマ『あなたにムチュー』のテーマ曲「Final Frontier」を歌ったことも、彼の多様なキャリアの一例です。

私生活と早逝

ゴールドは結婚しており、最初の結婚で3人の娘をもうけました。また、歌手のニコレット・ラーソンと婚約していた時期もありました。「ロンリー・ボーイ」の歌詞には自身の誕生日や年齢らしき描写がありますが、本人はインタビューでそれが自伝的なものではないと語っており、「幸せな子供時代だった」と述べています。

彼は腎臓がんとの闘病の末、2011年6月3日にロサンゼルスで59歳の若さで亡くなりました。彼の死後も、未発表音源集『Something New: Unreleased Gold』がリリースされるなど、その音楽は今日まで聴き継がれています。

アンドリュー・ゴールドは、自身のアーティスト活動のみならず、多くのミュージシャンを支え、様々なジャンルの作品に貢献した、まさに裏方の名手でもありました。彼の遺した多様な音楽作品は、時を超えて多くの人々に愛され続けています。

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