アンラ・マンユ

アンラ・マンユ：ゾロアスター教における絶対悪の化身

アンラ・マンユ（Angra Mainyu）は、ゾロアスター教において、最高神アフラ・マズダーと対立する、絶対的な悪の神として知られています。中世ペルシア語では「アーリマン」とも呼ばれ、ゾロアスター教の根幹をなす善悪二元論において、重要な役割を担っています。

善悪二元論におけるアンラ・マンユ

ゾロアスター教の創世神話によれば、世界の始まりの時、創造神スプンタ・マンユ（アフラ・マズダーの側面の一つ）は、もう一人の創造神であるアンラ・マンユと出会いました。この時、スプンタ・マンユは「善」を、アンラ・マンユは「悪」を選択し、それぞれが自身の原理に基づいて万物を創造したとされます。この選択が、世界の善と悪の対立構造を生み出したとされています。

アフラ・マズダーとの対立

アンラ・マンユは、アフラ・マズダーが創造した光の世界に対抗し、冬、病気、悪といった16の災難を創造したとされています。さらに、アフラ・マズダーの創造物を破壊するために、悪竜アジ・ダハーカを生み出しました。このアジ・ダハーカは、英雄スラエータオナによって退治が試みられるも、傷口から邪悪な生物が湧き出すため殺すことができず、最終的にダマーヴァンド山の地下深くに幽閉されたと伝えられています。

アンラ・マンユの復活と終末論

この世が始まる前の戦いでアフラ・マズダに敗れ、深闇に落とされたアンラ・マンユですが、徐々に勢力を盛り返し、再びアフラ・マズダと戦うとされています。アンラ・マンユは実体を持たない存在とされますが、この世に現れる際にはヘビやトカゲなどの爬虫類の姿で出現すると考えられています。配下には、大魔ダエーワや悪竜アジ・ダハーカなどがいます。ゾロアスター教の終末論においては、アンラ・マンユは最終的にアフラ・マズダーに敗北し、善が勝利するとされています。

ルドルフ・シュタイナーにおけるアフリマン概念

人智学を提唱したルドルフ・シュタイナーは、アンラ・マンユを「アフリマン」と呼び、悪の二大原理の一つとしました。シュタイナーによれば、アフリマンは、人間が自然科学や技術を発達させる一方で、物質主義に陥り、霊的な価値を見失わせる存在としています。アフリマンの影響により、人間は経験と五感の領域のみを信じるようになり、世界を矮小化・硬直化させてしまうと論じています。このアフリマンの概念は、現代社会における科学技術の進歩と精神性の喪失という問題を考察する上で、重要な視点を提供しています。

関連書籍

伊藤義教 『ゾロアスター研究』 岩波書店、1979年4月。ISBN 978-4-00-001219-5。
岡田明憲 『ゾロアスター教 - 神々への賛歌』 平河出版社、1982年10月。ISBN 978-4-89203-053-6。
バンヴェニスト, エミール、ニョリ, ゲラルド 『ゾロアスター教論考』 前田耕作編・監訳、平凡社〈東洋文庫 609〉、1996年12月。ISBN 978-4-582-80609-0。
ボイス, メアリー、山本由美子訳 『ゾロアスター教 - 三五〇〇年の歴史』 筑摩書房、1983年9月。ISBN 978-4-480-84124-7。

関連項目

ヨハネの[[黙示録]]
サタン
最後の審判
終末論
メシア
黙示

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