アジ・ダハーカ

アジ・ダハーカ（Aži Dahāka）は、ゾロアスター教の神話に登場する、非常に恐ろしい怪物です。その名前はアヴェスター語では「アジ・ダハー」、中世ペルシア語では「アジ・ダハーグ」、現代ペルシア語では「アズダハー」と呼ばれています。

概要

アジ・ダハーカの名前の由来について、「アジ」は「蛇」を意味しますが、「ダハーカ」の意味は正確にはわかっていません。一説には、インド神話に登場する敵対的な種族「ダーサ」と同語源であるという説や、「人」を意味し「人-蛇」を指すという説があります。

この怪物の存在は、紀元前12世紀から紀元前6世紀ごろに成立したとされる『アヴェスター』に記述が見られますが、図像表現としては紀元前2100年から紀元前1800年のバクトリアにまで遡ることができます。比較神話学的には、アジ・ダハーカはインド神話における蛇の怪物ヴリトラに対応すると考えられています。ヴリトラの別名である「アヒ」も、アヴェスター語の「アジ」と同様に「蛇」を意味し、言語学的な関連性が示唆されています。現代ペルシア語では、「アジ・ダハーカ」は「ドラゴン」を意味する言葉として使われています。

伝承

アジ・ダハーカは、ゾロアスター教以前の古代ペルシア神話にも登場しており、『アヴェスター』では3つの頭、3つの口、6つの目を持つ姿で描かれています。それぞれの頭は苦痛、苦悩、死を象徴しているとも言われ、その翼は広げると天を覆い隠すほど巨大だとされます。蛇と竜の両方の特徴を併せ持つ「有翼の龍蛇」として認識されていました。

アジ・ダハーカは、バビロン（古代メソポタミア）にあるとされるクリンタ城に住む暴君として描かれています。悪神アンラ・マンユによって創造され、その配下としてあらゆる悪の根源とされ、人々から恐れられていました。

神話の中では、アジ・ダハーカは千の魔法を駆使し、敵対する勢力を苦しめ、アフラ・マズダーの配下である火の神アータルと激しく戦いました。讃歌『ザムヤード・ヤシュト』では、アジ・ダハーカがアータルと光輪（クワルナフ）を奪い合ったエピソードが語られています。アジ・ダハーカは光輪を奪おうと罵詈雑言を浴びせましたが、アータルが「自分の体の中に入って口の中で燃え上がり、アジ・ダハーカが地上に出て世界を破壊するのを防ぐ」と宣言すると、恐れて退いたと伝えられています。

その後、アジ・ダハーカは英雄スラエータオナによって討伐されます。しかし、戦いの際、アジ・ダハーカの体に剣を刺しても、そこから爬虫類などの邪悪な生物が這い出てきたため、完全に殺すことができませんでした。そのため、最終手段としてダマーヴァンド山の地下深くに幽閉されたとされています。また、終末の時には再び解き放たれて、人や動物の3分の1を貪り食うとも予言されており、最終的には神話的英雄クルサースパによって倒される運命にあるとされています。

『シャー・ナーメ』における変化

時代が下ると、アジ・ダハーカの姿は竜から人間に変化していきます。イスラム教化後のイランでは、フェルドウスィーの叙事詩『シャー・ナーメ』に、両肩から蛇を生やした悪王ザッハークとして登場します。ザッハークは、フェリドゥーン（ゾロアスター教におけるスラエータオナ）によって退治される物語が語られています。

このように、アジ・ダハーカは時代や文化によってその姿や役割が変化しながらも、ペルシア神話における重要な存在として語り継がれています。その多様な姿は、人々の想像力と創造性を刺激し、物語の中で永遠に生き続けています。

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