アータル

アータル (Atar) - ゾロアスター教の火の神

アータルは、ゾロアスター教において非常に重要な位置を占める火の神です。アフラ・マズダーによって創造されたヤザタの一柱であり、アフラ・マズダーの息子であるとされています。パフラヴィー語では、アードゥル (Adur) あるいはアーダル (Adar) と呼ばれることもあります。

役割と神格

アータルは、人々に知恵と安寧をもたらし、世界を邪悪な存在から守護する「勇敢で善き戦士」として崇拝されていました。その神話では、稲妻となって悪魔を退治したり、雨を遅らせようとする悪しき存在を打ち払うとされています。これらの逸話は、アータルが持つ強大な力と、善なる存在を守護する役割を明確に示しています。

神話における活躍

アータルの最も有名な神話の一つに、光輪（クワルナフ）を巡る戦いがあります。『ザムヤード・ヤシュト』という讃歌には、アータルが邪竜アジ・ダハーカと光輪を奪い合った物語が語られています。アジ・ダハーカは、光輪を奪い取ろうとアータルに罵詈雑言を浴びせながら迫りました。しかし、アータルはアジ・ダハーカの体の中に入り込み、口の中で燃え上がることで、アジ・ダハーカが地上に来て世界を破壊することを阻止すると宣言しました。このアータルの言葉に恐れをなしたアジ・ダハーカは、退散したとされています。このエピソードは、アータルの勇気と知恵、そして強い決意を象徴しています。

また、アータルはしばしばミスラ神と行動を共にし、二人でアジ・ダハーカと戦うこともあったと伝えられています。このことは、アータルが単独で戦うだけでなく、他の神々と協力して悪に立ち向かう存在でもあったことを示唆しています。

アータルは、ゾロアスター教において火の神としてだけでなく、正義と勇気の象徴としても重要な意味を持っています。その神話は、古代ペルシアの人々の信仰や価値観を理解する上で欠かせない要素となっています。

参考文献

池上正太『オリエントの神々』新紀元社〈Truth In Fantasy 74〉、2006年。
カーティス, ヴェスタ・サーコーシュ『ペルシャの神話』薩摩竜郎訳、丸善〈丸善ブックス 096〉、2002年。
草野巧『幻想動物事典』新紀元社〈ファンタジー事典シリーズ〉、1997年。
ヒネルズ, ジョン・R.『ペルシア神話』井本英一、奥西峻介訳、青土社、1993年。

関連項目

* アドル (曖昧さ回避)

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