アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク

アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク：自由な表現の伝統

概要

アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨーク（以下、リーグ）は、1875年創立のニューヨークを代表する美術学校です。マンハッタンの西57丁目に位置し、アマチュアからプロのアーティストまで、幅広い層の学生を受け入れています。140年以上の歴史を持つリーグは、柔軟なカリキュラムと手頃な学費で、あらゆる社会階層の学生に質の高い美術教育を提供することで知られています。学位取得を目的としない、自由で実践的な学習環境が特徴です。

歴史：保守主義からの脱却と革新の歩み

リーグの設立は、当時、ナショナル・アカデミー・オブ・デザインの保守的な教育方針に不満を抱いた学生たちの奔流でした。より自由で多様な教育を求めた彼らは、16丁目と5番街の賃貸物件を拠点に活動をスタートさせます。当初はアカデミーからの離脱者たちでしたが、画家トマス・エイキンズや彫刻家オーガスタス・セント＝ゴーデンスといった著名なリーダーシップのもと、急速に成長を遂げました。

1889年には、米国芸術家協会（the Society of American Artists）や建築リーグ（Architectural League）と共に、米国芸術協会（AFAS）を設立。フランス・ルネサンス様式の建物を拠点とし、現在も歴史的建造物として登録されています。

20世紀に入ると、トーマス・ハート・ベントンといった著名な講師陣を迎え、ジャクソン・ポロックなど、後の前衛芸術を牽引するアーティストを輩出します。第二次世界大戦後も、抽象表現主義やポップアートといった現代美術の潮流に影響を与え続け、サイ・トゥオンブリー、ロバート・ラウシェンバーグ、ロイ・リキテンスタインといった巨匠たちがリーグで学んでいます。

現代においても、リーグはニューヨークのアートシーンの中核を担い続けています。近年は、現代美術教育の多様化や新たな表現手法の台頭により、リーグの存在感は相対的に減少したものの、多様な才能を持つ若いアーティストを惹きつけ、伝統的な技法と現代的な表現を融合させた教育を展開しています。その教育理念は、設立当初から掲げられている「経済状況や技術レベルに関わらず、あらゆる学生に美術教育の機会を提供する」という精神に基づいています。

著名な教員と卒業生

リーグは創立以来、数々の著名なアーティストを講師として招聘しました。ジョージ・ブリッジマンは人物画と美術解剖学を45年間教え、7万人の学生を指導したと伝えられています。その他にも、ウィリアム・メリット・チェイス、ウィル・バーネットといったアメリカを代表するアーティストが、長年にわたってリーグで教鞭を執っていました。日本人では、画家国吉康雄が1933年から1953年まで教鞭を執り、彫刻家の斎藤誠治は1998年から現在も指導を続けています。

卒業生にも、荻原碌山、高村光太郎、清水登之、葉祥明など、日本を代表する多くのアーティストが名を連ねています。

リーグのモットー：Nulla Dies Sine Linea

リーグのモットーは「Nulla Dies Sine Linea（線を引かぬ日はなし）」です。古代ローマの歴史家大プリニウスの記録に由来するこの言葉は、日々の制作活動の継続と、芸術に対する情熱を象徴しています。

結論

アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨークは、自由な表現と実践的な学習環境を重視し、140年以上に渡り、数々の優れたアーティストを育成してきた歴史を持つ美術学校です。その伝統は、現代においても脈々と受け継がれ、これからもニューヨークのアートシーンを牽引していくことでしょう。

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