イタリア戦線 (第一次世界大戦)

第一次世界大戦イタリア戦線：未回収の地を巡る激戦

第一次世界大戦中、1915年から1918年にかけて、イタリア北部で繰り広げられたイタリア戦線は、オーストリア＝ハンガリー帝国とイタリア王国の間で、領土と民族的アイデンティティを巡る激しい戦いでした。この戦線は、アルプス山脈を舞台にしたことから「アルプス戦線」とも呼ばれ、両国は同盟国と共に、長く停滞した塹壕戦を繰り広げました。

イタリア参戦の背景

イタリアが参戦した背景には、長年にわたる領土問題と民族主義の台頭がありました。

イストリアとトリエステ: 中世以来、イストリア半島はヴェネツィア共和国の支配下にありましたが、トリエステは独立した自由都市でした。1382年、トリエステはハプスブルク家の庇護下に入り、以降、ヴェネツィアとハプスブルク家の間で対立が続いていました。
外国支配とヴェストファーレン体制: イタリア戦争後、イタリア半島は「外国による支配の時代」に入りました。三十年戦争を経て、ハプスブルク家は弱体化し、フランスが主導するヴェストファーレン体制が成立しました。
イタリア統一運動と未回収のイタリア: 1809年、オーストリア帝国はイストリアをフランスに割譲しましたが、ナポレオン失脚後、再びオーストリアの支配下に戻りました。1861年にイタリア王国が建国されましたが、オーストリア領内にはイタリア人が居住する地域が残り、これらは「未回収のイタリア」と呼ばれ、イタリアの民族主義運動を刺激しました。
ビスマルク体制と三国同盟: 普仏戦争後、ドイツ帝国はフランスを孤立させるためにビスマルク体制を構築。イタリアはチュニジア侵攻を機にフランスと対立し、ドイツ、オーストリアと三国同盟を結びました。しかし、未回収の地を巡る問題は依然として存在しました。
仏伊協商と三国同盟の形骸化: 三国同盟にもかかわらず、イタリアはアフリカ進出でのドイツの支援に失望し、1902年にはフランスとの間で仏伊協商を結びました。これにより、三国同盟は事実上崩壊しました。
伊土戦争: 1911年、イタリアはオスマン帝国領トリポリに進出し、伊土戦争が勃発。この戦争はオスマン帝国の弱体化を招き、バルカン半島の情勢を悪化させました。
ロンドン条約: 第一次世界大戦勃発後、イタリアは中立を宣言しましたが、協商国は未回収地の割譲を条件にイタリアを自陣営に引き入れようとしました。1915年、イタリアはロンドン条約を締結し、協商国側で参戦することを決定しました。

1915年の戦況

緒戦: 1915年 5月23日、イタリア軍はビアンカの戦いで開戦しました。イタリア軍は兵力で勝っていたものの、訓練不足と装備不足から苦戦を強いられました。
イゾンツォの戦い（前半戦）: 1915年 6月、イタリア軍はイゾンツォ川沿いの都市ゴリツィア占領を目指しましたが、アルプス山脈の地形とオーストリア軍の強固な防御線に阻まれました。補給の遅れや指揮官の不人気も重なり、戦況は停滞しました。

1916年の戦況

アジアーゴの戦い: 1916年3月、オーストリア軍はトレンティーノを拠点に反撃作戦を展開。イタリア軍は防御準備が整っておらず、大きな損害を受けました。
イゾンツォの戦い（後半戦）: 1916年後半には、イゾンツォ川を巡る戦いが繰り返されました。第六次イゾンツォの戦いでイタリア軍はゴリツィアを占領しましたが、その後も戦況は膠着状態が続きました。

1917年の戦況

バインジッツァ高地の占領と撤退: 第十一次イゾンツォの戦いで、イタリア軍はバインジッツァ高地を占領しましたが、補給不足により撤退を余儀なくされました。
カポレットの戦い: 1917年10月、オーストリア軍とドイツ軍はカポレットで攻勢を開始。イタリア軍は壊滅的な打撃を受け、ピアーヴェ川まで後退しました。この敗北は、イタリア軍の士気を大きく低下させました。
ラパッロ会議: カポレットの敗北後、連合国はイタリアを支援し、新たな司令官アルマンド・ディアズを任命しました。英仏の支援により、イタリア軍は戦線を立て直し、連合国最高会議を設立しました。

1918年の戦況

ピアーヴェ川の戦い: 1918年、オーストリア軍は最後の攻勢をかけましたが、イタリア軍はこれを撃退しました。この戦いでオーストリア軍は大損害を被り、イタリア側の勝利に大きく傾きました。
ヴィットリオ・ヴェネトの戦い: 1918年10月、イタリア軍はヴィットリオ・ヴェネトを目標に攻勢を開始。オーストリア軍は士気を失い、防衛線は崩壊しました。
中央同盟国での革命: ヴィットリオ・ヴェネトの戦いは、オーストリア＝ハンガリー帝国の崩壊を決定づけました。帝国を構成する各邦が独立を宣言し、帝国は瓦解しました。
終戦: 1918年 11月3日、オーストリア＝ハンガリーは休戦を求め、ヴィラ・ジュスティ休戦協定が締結されました。これにより、イタリア戦線は終結を迎えました。
講和条約: オーストリア＝ハンガリー帝国崩壊後、オーストリア共和国とハンガリー王国は別々に講和条約を締結しました。

戦後の影響

イタリア戦線は、第一次世界大戦における重要な戦線の一つであり、イタリアの領土拡張に大きく貢献しました。しかし、この戦いはイタリア社会に大きな傷跡を残し、戦後の政治的混乱の一因ともなりました。未回収のイタリアを巡る問題は、後の第二次世界大戦にも影響を与えることになります。

題材とした作品

多数の戦争映画やドキュメンタリーでイタリア戦線が描かれています。
文学作品では、戦場の悲惨さや兵士の苦悩を描いたものが数多く存在します。

脚注

第一次世界大戦の戦史研究は、現在も継続的に行われています。
現地の記念碑や博物館では、当時の様子を知ることができます。

外部リンク

The Walks of Peace in the Soča Region Foundation: イゾンツォ川周辺の史的・文化的遺産の保存と公開を行う財団のサイト

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