イタリア王国 (神聖ローマ帝国)

イタリア王国の歴史

イタリア王国（ラテン語: Regnum Italiae）は、中世から近世にかけて現在のイタリア半島北部を中心に存在した王国です。神聖ローマ帝国を構成する主要な王国の一つであり、ドイツ王国、ブルグント王国と並び、皇帝を君主としていました。しかし、その実態は複雑で、時代によって大きく変化しました。

成立と初期の混乱

イタリア王国は、西ローマ帝国が滅亡した後、東ローマ帝国の委任を受けた世俗領主によって統治された時代を経て成立しました。その後、ランゴバルド王国がイタリアを支配しましたが、774年にフランク王国のカール1世（後のカール大帝）によって征服され、カール自身がイタリア王を兼ねるようになりました。これが中近世のイタリア王国の始まりです。カールはさらにローマ皇帝の位も得て、カロリング朝によるイタリア統治が始まりました。

しかし、カロリング朝の衰退とともに、イタリアは混乱期に入ります。諸侯がイタリア王位を巡って争い、ローマ皇帝位も空位となる時期がありました。951年、東フランク王国のオットー1世がイタリアに侵攻し、イタリア王を名乗り、後にローマ皇帝にも即位しました。これにより、イタリア王国は東フランク王国（後のドイツ）と皇帝という共通の君主を持つことになり、神聖ローマ帝国の一部として組み込まれることになりました。

神聖ローマ帝国の一部として

神聖ローマ帝国の一部となったイタリア王国ですが、皇帝がイタリアに滞在することは稀で、実質的な中央政府は存在しませんでした。しかし、イタリアがローマ帝国を構成する王国であるという意識は残り続けました。皇帝はイタリア王権を行使し、都市国家群に対して影響力を行使しようとしましたが、都市国家群は皇帝権力に抵抗し、教皇を支持するゲルフと皇帝を支持するギベリンの対立が激化しました。特にロンバルディア同盟は皇帝権力に対抗し、自治権を確立しました。

13世紀から14世紀にかけて、イタリアにおける皇帝権力は大きく弱体化し、都市国家群の独立性が高まりました。ルネサンス文化が花開き、イタリアは経済的にも文化的にも繁栄を迎えましたが、同時に都市国家間の争いも激化しました。15世紀には、イタリアは列強の介入を受けるようになり、1494年に勃発したイタリア戦争は、神聖ローマ帝国、教皇領、イタリア諸侯、フランス、スペインなど多くの勢力が絡み合う複雑な様相を呈しました。

スペインとオーストリアの支配

イタリア戦争の結果、イタリアはスペイン・ハプスブルク家の支配下に置かれました。神聖ローマ皇帝カール5世はスペイン王も兼ねていたため、イタリアは広大なハプスブルク帝国の版図に組み込まれました。その後、スペイン・ハプスブルク家が断絶すると、イタリアでの覇権はオーストリア・ハプスブルク家へと引き継がれました。しかし、神聖ローマ帝国はもはやイタリアを統治する力を失っており、イタリア王国は名目的な存在となっていきました。

帝国の解体とイタリア王国の終焉

18世紀末、フランス革命の影響がイタリアにも及びました。フランス革命軍がイタリアに侵攻し、ナポレオン・ボナパルトがイタリアを支配するようになります。ナポレオンはイタリアに衛星国家を設立し、1797年のカンポ・フォルミオ条約によって神聖ローマ皇帝はイタリアにおける権利を放棄させられました。これにより、名目上だけでも中世から続いてきたイタリア王国は消滅し、チザルピーナ共和国が建国されました。その後、イタリア共和国、そしてイタリア王国へと変遷しますが、これらはナポレオンの支配下であり、かつてのイタリア王国とは異なる存在でした。

神聖ローマ帝国自体も1806年に解散し、皇帝とイタリアを結びつけていた紐帯は完全に失われました。ウィーン会議でイタリアは再びオーストリアの影響下に入りましたが、かつての帝国イタリアの復興はならず、イタリア王国は歴史の中に消え去りました。

まとめ

イタリア王国は、神聖ローマ帝国の一部でありながら、常に独自の道を歩もうとしてきた複雑な歴史を持つ王国でした。中世の混乱期から、ルネサンスの繁栄、列強の介入、そして革命の波まで、イタリア王国の歴史は、ヨーロッパの歴史を理解する上で重要な役割を果たしています。皇帝、教皇、諸侯、都市国家、そして外国勢力が複雑に絡み合う中で、イタリアは独自の文化と歴史を築き上げていきました。イタリア王国の歴史は、中世から近世にかけてのヨーロッパ政治の縮図と言えるでしょう。

前史：ランゴバルド王国

西ローマ帝国の滅亡後、イタリアは東ゴート王国などの世俗領主によって統治されましたが、東ローマ帝国の攻撃により東ゴート王国は滅亡しました。しかし、東ローマ帝国によるイタリア支配は短く、567年から568年にかけてランゴバルド王国が侵攻し、イタリアを征服しました。ランゴバルド族はイタリアに定住し、イタリア王を名乗る王も現れましたが、諸侯の自治権が強く、王権が安定しない時期もありました。それでもランゴバルド王国は東ゴート王国と比べて安定しており、イタリアにおける支配勢力として存在しました。

カロリング朝 イタリア

774年、フランク王国のカール1世は教皇の保護を名目にランゴバルド王国に侵攻し、首都パヴィアを包囲して征服しました。カールはランゴバルド王冠であるロンバルディアの鉄王冠を戴き、ランゴバルド王・イタリア王カルロ1世として即位しました。これが中近世イタリア王国の始まりです。さらにカールは800年にローマ皇帝として戴冠し、カロリング朝によるイタリア統治が始まりました。しかし、カロリング朝が衰退するとイタリアは再び混乱に陥りました。諸侯がイタリア王位を争い、ローマ皇帝位も空位となる時期がありました。

帝国イタリア

951年、東フランク王国のオットー1世がイタリアに侵攻し、イタリア王を名乗りました。その後、オットー1世はローマ皇帝にも即位し、東フランク王国（後のドイツ）とイタリアは共通の君主を持つことになりました。これにより、イタリア王国は神聖ローマ帝国の一部として組み込まれることになりました。しかし、皇帝がイタリアに滞在することは稀で、イタリアの中央政府は事実上存在しませんでした。

スタウフェン朝

ホーエンスタウフェン朝の皇帝フリードリヒ1世は、イタリアにおける帝国の権威を復活させようとしましたが、北イタリアの都市国家群は教皇の支持を受けてロンバルディア同盟を結成し、皇帝に対抗しました。ロンバルディア同盟は皇帝軍を破り、イタリアの諸都市は自治権を勝ち取りました。その後も皇帝と都市国家間の対立は続き、皇帝を支持するギベリンと教皇を支持するゲルフの対立が激化しました。この対立はイタリアの政治を大きく左右することになりました。

衰退

大空位時代を経て神聖ローマ帝国は弱体化しましたが、理念としてのイタリア王国はまだ存在していました。しかし、イタリアはもはや神聖ローマ帝国の影響下にはなく、都市国家が独立し、専制君主が現れ始めていました。ローマ皇帝もまたイタリアを直接支配することはなく、有力な君主に称号を与えることで自身の権威を示そうとしました。

近世 イタリア

近世になると、イタリア王国の実態はますます曖昧になっていきました。ローマ皇帝がイタリアを直接支配することはなくなり、イタリア王位は事実上、神聖ローマ皇帝の称号の一部と化しました。それでも、皇帝は帝国イタリアの封主として、イタリアの諸侯たちと封建的なつながりを持ち続けました。しかし、この結びつきは名目的なものに過ぎず、イタリアはもはや神聖ローマ帝国の支配下にはありませんでした。

近代のイタリア

フランス革命戦争により、イタリア王国は完全に消滅しました。皇帝ナポレオンによってイタリアは支配され、神聖ローマ帝国も解散しました。ウィーン会議によって、イタリアはオーストリアの影響下に戻りましたが、かつての帝国イタリアの復活は実現しませんでした。これにより、中世から続いてきたイタリア王国は、歴史の中に完全に消え去ることになりました。

歴代君主

- カルロ1世（ローマ皇帝カール1世　774年 - 814年）
- ピピン（781年 - 810年　カルロ1世と共同統治）
- ベルナルド（810年 - 818年　 814年まではカールイ1世と共同統治）
- ロドヴィコ1世（フランク国王ルートヴィヒ1世・ローマ皇帝ルートヴィヒ1世　818年 - 840年）
- ロターリオ1世（中フランク国王ロタール1世・ローマ皇帝ロタール1世　822年 - 855年）
- ロドヴィコ2世（ローマ皇帝ルートヴィヒ2世　855年 - 875年）
- カルロ2世（西フランク国王シャルル2世・ローマ皇帝カール2世　875年 - 877年）
- カルロマンノ（東フランク国王カールマン　877年 - 879年）
- カルロ3世（フランク国王カール3世・ローマ皇帝カール3世　879年 - 888年）
- ベレンガーリオ1世（888年 - 894年　 889年からはグイードの対立王）
- グイード（ローマ皇帝グーイド　889年 - 894年　 894年からランベルトと共同統治）
- アルヌルフォ（東フランク国王アルヌルフ・ローマ皇帝アルヌルフ　894年 - 899年）
- ラトルド（896年 - 896年　アルヌルフォと共同統治）
- ランベルト（ローマ皇帝ランベルト　891年 - 898年　 894年までグイードと共同統治）
- ベレンガーリオ1世（復位　ローマ皇帝ベレンガル1世　898年 - 924年　 900年から905年までロドヴィコ3世の対立王）
- ロドヴィコ3世（キスユラブルグント国王ルイ3世・ローマ皇帝ルートヴィヒ3世　900年 - 905年）
- ロドルフォ（ユーラブルグント国王ルドルフ2世　922年 - 933年　 926年以降はウーゴの対立王）
- ウーゴ（926年 - 947年　 931年以降はロターリオ2世と共同統治　945年以降は王位のみ保持して隠棲）
- ロターリオ2世（931年 - 950年　 931年から945年はウーゴと共同統治）
- ベレンガーリオ2世（950年 - 961年　アダルベルトと共同統治、951年以降はオットーネ1世の対立王）
- アダルベルト（950年 - 961年　ベレンガーリオ2世と共同統治、951年以降はオットーネ1世の対立王）
- オットーネ1世（皇帝オットー1世　951年 - 973年）
- オットーネ2世（皇帝オットー2世　980年 - 983年）
- オットーネ3世（皇帝オットー3世　996年 - 1002年）
- アルドゥイーノ（1002年 - 1014年、1004年以降はエンリーコ2世の対立王）
- エンリーコ2世（皇帝ハインリヒ2世　1004年 - 1024年）

以降は神聖ローマ皇帝一覧を参照

脚注

注釈

参考文献

- Liutprand of Cremona|Liutprand, Antapodoseos sive rerum per Europam gestarum libri VI.
- Liutprand, Liber de rebus gestis Ottonis imperatoris.
- Anonymous, Panegyricus Berengarii imperatoris (10th century) [Mon.Germ.Hist., Script., V, p. 196].
- Anonymous, Widonis regis electio [Mon.Germ.Hist., Script., III, p. 554].
- Anonymous, Gesta Berengarii imperatoris [ed. Dumueler, Halle 1871].
- ピーター・H. ウィルスン『神聖ローマ帝国 1495‐1806』山本文彦訳、岩波書店〈ヨーロッパ史入門〉、2005年。ISBN 978-4000270977。