イドリース1世 (リビア王)

イドリース1世：リビア王国初代国王、激動の生涯

イドリース1世（1889年3月12日 - 1983年5月25日）は、リビア王国の初代にして最後の国王（在位：1951年12月24日 - 1969年9月1日）です。ムハンマド・イドリースとも呼ばれました。1952年には、彼の肖像がリビアの5ピアストル紙幣に使用されています。

生い立ちと即位

イドリース1世は、オスマン帝国領キレナイカ（現在のリビア東部）で、長年にわたりサヌーシー教団を率いてきたサヌーシー家に生まれました。サヌーシー教団は、リビアにおけるイスラム復興運動の中核であり、彼の家系はその指導者として強い影響力を持っていました。彼は将来の国王となるべく育てられましたが、1911年の伊土戦争によってリビアはイタリアの植民地となり、その運命は大きく変わります。

サヌーシー教団はイタリアの支配に抵抗し、第二次世界大戦では連合国側として参戦しました。しかし、1943年にイタリアが敗北すると、リビアはイギリスとフランスの共同統治下に置かれることになります。イドリース1世は、宗主国の下でキレナイカ地方の自治を認められていたものの、元首としての地位を得ることはできませんでした。

しかし、1951年12月24日、国際連合の決議により、キレナイカ、トリポリタニア、フェッザーンの3州が連合王国（リビア王国）としてイギリスから独立すると、イドリース1世はリビア国王に即位しました。その後、リビアは石油収入によって潤い、彼はその富を背景に国王として君臨することになります。

西側諸国との接近

即位後、イドリース1世は冷戦下において、旧宗主国であるイギリスやアメリカと緊密な関係を維持しました。アーマンド・ハマーが率いるオクシデンタル・ペトロリウムやロイヤル・ダッチ・シェルなどの石油関連企業がリビア国内で石油の掘削を行う際、彼は後見人的な立場となり、西側諸国への安定的な石油供給に協力しました。この政策は、リビアの経済発展に大きく貢献する一方、国内には西側への過度な依存に対する不満も生み出しました。

亡命、そしてその死

親西側的な政策に対する反発は、ムアンマル・アル＝カッザーフィー陸軍大尉とその同志によるクーデターという形で表面化します。1969年9月1日、イドリース1世が病気療養のためトルコに滞在中に、カッザーフィーらは無血クーデターを決行し、王政を打倒しました。これにより、イドリース1世は亡命を余儀なくされ、その後しばらくトルコに滞在した後、リビアの隣国であるエジプトへと移り、1983年に生涯を終えました。

死後のリビア

イドリース1世の死後、カッザーフィーによる独裁体制が続きましたが、リビア国民の不満は徐々に高まり、2011年にはリビア内戦が勃発しました。この内戦において、反カッザーフィー勢力であるリビア国民評議会は、王国時代の国旗を使用し、同年8月には首都トリポリを制圧して事実上の代表政権となりました。イドリース1世の治世は短く、その後のリビアは激動の時代を経験しましたが、彼の存在はリビアの歴史において重要な位置を占めています。

イドリース1世の生涯は、リビアの独立、石油資源の開発、そしてその後の政治的混乱を象徴するものであり、彼の足跡は現代のリビアにも深く影響を与え続けています。

もう一度検索