イプラトロピウム

イプラトロピウム臭化物について

イプラトロピウム臭化物（Ipratropium bromide）は、主に喘息や慢性閉塞性肺疾患（COPD）の治療に用いられる医薬品で、抗コリン薬の一種です。製品名として「アトロベント」が広く知られています。この薬は、気管支平滑筋におけるアセチルコリン受容体を遮断し、結果として気管支の緊張を緩和します。特に、イプラトロピウムは世界保健機関（WHO）の必須医薬品リストにも掲載されています。

使用対象

イプラトロピウムは、人間だけでなく馬などの動物に対しても呼吸器疾患の治療に利用されています。ただし、特に競走馬に関しては、特定の国でレース中の残留物質に制限があり、フランスでは2006年の第85回凱旋門賞において、ディープインパクトが体内にイプラトロピウムを残したままで出走したため失格となりました。

効能と承認

この薬物は、主に吸入薬として使用され、COPDや気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫の治療に効果があります。日本では、イプラトロピウムを含む製品について、ネブライザー用のバイアルやエアロゾル点鼻薬が手に入ります。また、イプラトロピウムとサルブタモールの配合剤もいくつかの国で承認されています。イプラトロピウムを鼻孔に噴霧すると鼻漏の軽減が期待できるものの、鼻閉の改善には寄与しません。

禁忌と注意事項

イプラトロピウムは、アトロピンに対する過敏症がある患者や緑内障、前立腺肥大症の患者には禁忌とされています。さらに、内服の場合、消化管閉塞や排尿困難を抱える患者には使用が推奨されないため、注意が必要です。

過去には、エアロゾル製剤にクロロフルオロカーボン（CFC）が使用されていましたが、2008年以降は環境に配慮した代替フロンが利用されています。これにより、レシチンを含まない形での製剤も増えています。

副作用

イプラトロピウムの主な副作用には、アナフィラキシー様の症状、上室性頻脈、心房細動などがあり、これらは特に注意が必要です。吸入薬として使用する場合、経口抗コリン剤よりも副作用が少なく抑えられますが、ドライマウスやある種の鎮静効果が見られることがあります。また、潮紅や緑内障、嘔気、動悸、頭痛などの症状も報告されています。特に、ネブライザー使用者においては稀に尿閉が見られることがあります。

相互作用

イプラトロピウムは、他の気管支拡張薬（交感神経β2受容体作動薬やテオフィリンなど）との併用により効果を高めることがあります。また、三環系抗うつ薬や抗パーキンソン病薬の併用は副作用を増加させる可能性がありますが、吸入剤として使用した場合はこの影響は軽微です。

作用機序

イプラトロピウムは、気管支平滑筋のアセチルコリンの作用を抑制し、ムスカリン受容体を阻害します。これにより、細胞内の環状グアノシン一リン酸（cGMP）の濃度を低下させ、肺の平滑筋の緊張を緩和し、気管支収縮や粘液分泌を抑制します。

この薬剤は、血中に移行せず全身的な副作用が少ないため、安心して使用できるとされています。ただし、即効性ではないため、短時間作用型の薬剤としては用いられません。

合成プロセス

イプラトロピウム臭化物は、アトロピンと2-臭化プロパンとの反応によって合成されます。

参考情報

この薬物に関連する他の薬には、アドレナリン、ベクロメタゾン、サルブタモール、イプラトロピウム・サルブタモールなどがあります。

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