イポリト・イリゴージェン

フアン・イポリト・イリゴージェン：アルゼンチン政治に足跡を残した改革者

フアン・イポリト・デル・サグラド・コラソン・デ・ヘスス・イリゴージェン・アレム（1852年7月12日 - 1933年7月3日）は、アルゼンチンの政治家であり、大統領としてその名を知られています。彼は、1916年に男子普通選挙によって選出された、アルゼンチン史上初の大統領です。2度大統領に選ばれましたが、1930年の軍事クーデターにより、その職を追われることとなりました。

概要

イリゴージェンは、急進市民同盟の創設者の一人として、アルゼンチン政界に大きな影響を与えました。彼が大統領に就任する以前のアルゼンチンは、「保守共和国」と呼ばれる保守主義政権が長く続き、官僚主義とテクノクラートの腐敗が蔓延し、国民は困窮していました。彼が当選したことで、中産階級出身者でも大統領になれることを知った国民は、イリゴージェン政権を支持し、その豊富な第一次産業と第一次世界大戦における中立政策によって、アルゼンチンは繁栄を極めました。また、国営鉄道の創設や石油採掘にも尽力し、労働組合の権利擁護など、左派的な政策を積極的に推し進めました。

イリゴージェンの思想は「イリゴージェニズモ」と呼ばれ、1940年代を通じて、イリゴージェン主義者はペロン主義に合流しました。ペロン主義は、2023年現在までアルゼンチンに影響を与え続けている、重要な政治思想です。

経歴

1852年、イリゴージェンはブエノスアイレスで生まれました。1891年には、叔父のレアンドロ・アレムと共に急進市民同盟を設立しました。当時、彼は内向的で表に出ることを嫌う性格から「エル・ペルド」（アルマジロ）というニックネームで呼ばれていました。1896年にアレムが自殺した後、イリゴージェンは急進市民同盟を一人で率いるようになり、当時の寡頭支配者による「協約」体制に全面的に反対する政策を採用しました。

急進市民同盟は、1893年と1905年の二度、武装蜂起を試みましたが、後にイリゴージェンは非暴力的な手段を選び、投票を全面的にボイコットする「革命的棄権」政策を1912年まで続けました。その結果、1912年には当時のロケ・サエンス・ペーニャ大統領に男子普通選挙を実施する「サエンス・ペーニャ法」を承認させることに成功しました。

大統領として

イリゴージェンは、普通選挙が導入されてから初めての選挙で大統領に選出されました。しかし、反対勢力が支配する地方の各州、そして各州の議会によって選出される元老院との対立に直面しました。彼は、強情な知事や土着の支配層との闘いにおいて、国家非常事態を発令し、連邦政府による介入を行いました。

イリゴージェン政権下で、アルゼンチン経済は繁栄を謳歌しました。第一次世界大戦中は中立を維持し、主要な輸出品である肉類や穀物の新たな市場を開拓し、牛肉価格の高騰による恩恵を受けました。また、経済成長を加速させるために、エネルギーの自立化を追求しました。その結果、国営石油会社YPFの設立に対する議会の支持を得て、アルゼンチン軍の近代化を推進していたエンリケ・モスコーニ将軍をYPFの総裁に任命しました。さらに、零細農民への助成金を拡充し、賃金紛争においては労働組合に有利な解決を図りました。

第一次世界大戦中、アルゼンチン経済は目覚ましい成長を遂げ、「世界の穀倉」として知られ、当時の一人当たり国内総生産は世界で最も高い水準にありました。1919年の経済危機の後、官僚制度を拡充し、都市部の有権者のために公共支出を拡大しました。憲法の規定により再選が制限されていたため、同じ急進市民同盟のマルセーロ・アルベアールを後任の大統領に据えました。

1928年にアルベアールの任期が満了した後、イリゴージェンは圧倒的な得票数で再び大統領に選出されました。しかし、1929年に始まった世界恐慌により、体制変革を求める軍部や労働組合と、それに反対する保守層の動きが表面化しました。その背景には、政権によるスタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー（後のエッソ）やYPFのサルタ州からボリビアへの原油密輸の取り締まりへの反発がありました。

失脚と死去

1930年9月6日、ホセ・フェリクス・ウリブル将軍率いる軍事クーデターにより、イリゴージェンは大統領の座を追われました。これは、アルゼンチン憲法が制定されて以来、初のクーデターでした。イリゴージェンは流刑に処されましたが、後に赦免され、ブエノスアイレスで生涯を終えました。

フアン・イポリト・イリゴージェンは、アルゼンチン政治における重要な人物として、その功績と影響は今もなお語り継がれています。

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