インスピレーション4

インスピレーション4 (Inspiration4)

インスピレーション4は、2021年9月に行われた画期的な有人宇宙飛行ミッションです。シフト4ペイメンツ社の最高経営責任者（CEO）、ジャレッド・アイザックマン氏の発案により、スペースX社が運用を担当しました。このミッションの最大の特色は、搭乗したのが全員民間の宇宙旅行者であり、プロの宇宙飛行士は含まれていなかった点です。また、テネシー州メンフィスにあるセント・ジュード小児研究病院を支援するための大規模な慈善活動の一環として実施されました。

ミッションは、2021年9月16日協定世界時00時02分56秒（日本時間同日09時02分56秒）に、フロリダ州のケネディ宇宙センター39A発射施設から、ファルコン9ブロック5ロケットに搭載されたクルードラゴン宇宙船「レジリエンス」によって打ち上げられました。宇宙船は無事に低軌道に投入され、地球周回軌道での約3日間の飛行を終えた後、2021年9月18日協定世界時23時06分49秒にフロリダ沖の大西洋に着水し、ミッションは成功裏に完了しました。

ミッションの目的とクルー

インスピレーション4は、民間人だけで低軌道に到達した初の有人宇宙飛行という歴史的意義を持ちます。この飛行の主目的の一つは、セント・ジュード小児研究病院への資金援助であり、クルーとミッション全体で2億ドル以上の寄付を集めることを目指しました。

ミッションコマンダーを務めたのは、飛行の発案者であり、自身も経験豊富なパイロットであるジャレッド・アイザックマン氏です。彼はスペースXから4席分の搭乗枠を購入し、そのうち2席をセント・ジュード病院に寄付しました。病院は、骨肉腫からの回復者であり医療助手でもあるヘイリー・アルセノー氏を搭乗員の一人として選びました。もう一つの搭乗枠は、「St. Jude Mission: Inspired」と名付けられた抽選キャンペーンを通じて提供され、最終的に当選者からその権利を譲り受けたアメリカ空軍退役軍人のクリストファー・センブロスキ氏が搭乗しました。残る一席は、シフト4ペイメンツの顧客を対象としたビジネスアイデアコンテストで優勝した起業家、シアン・プロクター氏が獲得しました。

搭乗員全員は、スペースXによる商業宇宙飛行のための訓練を受けました。これには、軌道船内での操作練習、微小重力環境への適応訓練、緊急時の対応、シミュレーションなどが含まれています。飛行中には、トイレに関する警報が発生したことも報じられました。

宇宙船と軌道

インスピレーション4で使用されたクルードラゴン「レジリエンス」は、過去にCrew-1ミッションでも使用された機体です。このミッションのために、通常は国際宇宙ステーションとのドッキングに用いられる結合部が、特別に設計されたドーム型の窓「キューポラ」に置き換えられました。このキューポラは、宇宙空間の360度パノラマビューを提供し、乗員が地球や宇宙を眺めるための素晴らしい機会を提供しました。キューポラは打ち上げ時と再突入時には保護カバーで覆われ、今後のミッションでドッキングが必要な場合には容易に交換できるようになっています。

インスピレーション4は、国際宇宙ステーションのような宇宙ステーションを訪れなかった有人軌道宇宙飛行としては、2009年のSTS-125以来の事例となりました。また、この飛行は、1966年のジェミニ11号が到達した約1,368 kmという記録には及びませんが、約585 kmという高い軌道高度に到達しました。これは、1999年のSTS-103（610km）以降の有人飛行としては最高の高度であり、スペースシャトル計画やジェミニ計画と比較しても、地球周回軌道における有人宇宙飛行の歴史上5番目に高い高度となりました。参考までに、国際宇宙ステーションの軌道高度は約408kmです。

高高度軌道では、国際宇宙ステーションの軌道とは異なるレベルの宇宙放射線に曝されることから、このミッションでは、一般市民の宇宙旅行が人体に与える影響を研究するための健康実験が数多く行われました。超音波検査、微生物サンプルの採取、体液シフトや心電図、心拍数などの生体データの記録などが実施され、スペースX、ベイラー医科大学の宇宙健康基礎及び応用研究所、ワイル・コーネル医科大学の研究者らが共同で分析を進めました。

軌道上では、ミッションの「無重力インジケーター」として、セント・ジュード病院のセラピードッグを模したぬいぐるみが使用されました。ロケットエンジンの停止後、このぬいぐるみはアルセノー氏の手から離れて宇宙船内を漂い始め、乗員に微小重力環境にいることを視覚的に示しました。

約2日間にわたり高高度で地球を周回した後、再突入に備えて軌道高度を約365 kmに下げ、最終日を過ごしました。

帰還とメディア

2021年9月18日、クルードラゴン「レジリエンス」は大西洋に着水し、迅速に回収船によって収容されました。乗員はアルセノー氏を先頭に、無事に宇宙船から出てきました。

このミッションは、慈善活動への貢献や、民間人だけの飛行、到達した軌道高度など、広く肯定的に報道されました。ミッションの様子は、Netflixで公開されたドキュメンタリーシリーズ「Countdown: Inspiration4 Mission to Space」にまとめられ、多くの人々に紹介されました。

もう一度検索