インセンティブ (携帯電話)

携帯電話・PHSにおけるインセンティブ（販売奨励金）とは

携帯電話・PHSの販売促進を目的として、電気通信事業者が販売代理店に支払う契約実績に対する報奨金や奨励金のことを指します。これは「販売奨励金制度」や「代理店手数料」とも呼ばれ、日本の携帯電話市場において特徴的なビジネスモデルとして知られています。

日本型販売インセンティブモデル

このモデルは、日本市場に特有の慣習であり、海外の主要市場では同様の制度はほとんど見られません。しかし、日本、韓国、ヨーロッパの一部では、若干の違いはありますが、このインセンティブモデルが採用されています。

インセンティブモデルの概要

通常、携帯電話を割安で販売すると販売会社の収益は減少しますが、インセンティブモデルでは、携帯電話が1台契約されるごとに、携帯電話会社から販売会社にインセンティブ（販売奨励金、代理店手数料）が支払われます。

販売会社は、この手数料分を値引きして本体価格を仕入価格以下に設定することで販売台数を増やし、消費者は比較的安価に携帯電話を購入できるようになります。携帯電話会社は手数料を負担しますが、端末が安価に提供されることで市場が急速に拡大し、契約者数の増加や通話時間の伸長によって収益を上げる構造となっています。

このインセンティブモデルは、元々は中継電話サービスの契約者獲得のために用いられていたスキームを携帯電話に応用したものです。その後、家庭向けADSL、FTTH、直収電話サービスなどにも導入されましたが、携帯電話におけるものが最も広く知られています。

インセンティブのメリットとデメリット

メリット

携帯電話事業者にとって

安価な端末による新規契約者の獲得が容易になる。
買い替えを促進し、機種変更のサイクルを短縮できる。
新サービスの利用を促進する機能・性能を持つ端末の発売時期を調整できる。

携帯電話端末メーカーにとって

端末の製造は携帯電話事業者の規格・意向に従うため、在庫リスクや開発費を携帯電話事業者が負担してくれる。

消費者にとって

端末価格が低下し、買い替えが容易になる。
端末の品質は携帯電話事業者が一定の責任を負うため、安心して利用できる。

デメリット

携帯電話事業者にとって

端末を買い上げて販売店に卸すシステムのため、在庫リスクがある。
奨励金相当の利益が出る前に解約されるリスクがある。

携帯電話端末メーカーにとって

端末の機能などを決定する主導権を携帯電話事業者が持つため、独自性を発揮できない。

消費者にとって

奨励金のコストが通信料金に上乗せされる。
端末の機能などを決定する主導権を携帯電話事業者が持つため、端末の個性が失われ、ニッチ市場のニーズに応えられない。

日本におけるインセンティブ制度

携帯電話事業者の販売奨励金は、その経営戦略に応じて一様ではありませんが、概念的には以下の2つに分けられます。

1. 端末販売奨励金：端末の販売促進のための奨励金
新規端末販売奨励金：新規端末の販売時に支払われる奨励金。
機種変更奨励金：既存顧客への新規端末販売・機種変更時に支払われる奨励金。

2. 通信サービス販売奨励金：通信サービス契約の締結・維持のための奨励金
新規成約奨励金：新規契約締結時に支払われる奨励金（端末販売の有無は問わない）。
オプション獲得奨励金：オプションサービス等の契約時に支払われる奨励金。
契約獲得数量奨励金：一定期間の新規回線契約数に応じて支払われる奨励金。
* 契約継続奨励金：契約から一定期間継続した時に支払われる奨励金。

日本の市場動向

インセンティブ制度により、2006年3月末には日本の携帯電話普及率は75%を超えました。しかし、市場の成熟に伴い、短期間での解約や機種変更による元手回収の問題が生じました。

2007年6月、総務省はインセンティブ廃止に向けた意見をまとめ、2008年度から端末価格と通話料を分離した料金制度を導入。2010年度には、この料金制度のみとする方針が示されました。

ソフトバンクの「スーパーボーナス」は、インセンティブモデルの見直しを目的として開始されたもので、端末代金の割賦（かっぷ）方式を選択できる日本初の取り組みでした。これは海外の販売スタイルに似ていますが、月額料金から一定額が割り引かれる月月割があるなど、インセンティブ制度が形を変えて残っています。

他の携帯電話事業者も、総務省の指導により販売制度を変更しました。KDDIは「au買い方セレクト」を、NTTドコモは「バリューコース・ベーシックコース」を導入し、徐々に割賦制度が主流となりました。

2015年12月、総務省は携帯電話の料金負担を軽減する方針をまとめました。

韓国におけるインセンティブ制度

韓国では1990年代に端末販売奨励金競争が激化し、先発企業であるSKテレコムが市場を独占する恐れが高まりました。韓国政府は、端末販売奨励金が後発事業者の経営悪化を招き、競争状況を悪化させるとして、2000年に端末奨励金規制を導入しました。

規制導入直後には端末価格が上昇し、売上が低下したため、第3世代携帯の普及が遅れたと言われています。

電気通信事業法改正と端末流通法

2003年、韓国では電気通信事業法を改正し、補助金支給を原則禁止。しかし、新技術や新規サービス活性化のため、一部の補助金が認められる例外が設けられました。

2006年には、販売奨励金制度が再び解禁されました。

2014年10月には、通信料金負担軽減政策の一環として端末流通法が施行されました。これにより、通信事業者だけでなく、端末メーカーや販売店も規制対象となりました。補助金の上限が定められ、機種ごとの補助金と販売価格の公示が義務付けられました。

また、補助金を受けない顧客に対しては、通信料金の割引が義務付けられました。

端末流通法の施行後、補助金競争は下火になりましたが、法律を違反する事業者も存在します。

フランスにおけるインセンティブ制度

フランスでは、端末への販売奨励金に関する最低限の収入を事業者に保障するため、回収期間として6ヶ月間のSIMロック規制が認められています。

まとめ

携帯電話・PHSにおけるインセンティブ（販売奨励金）は、市場を活性化させる一方で、事業者間の不公正な競争や消費者への不利益を生む可能性も持っています。各国では、これらの問題に対処するために様々な規制や制度が導入されています。日本においては、市場の成熟に伴いインセンティブ制度の見直しが進められ、より透明性の高い料金体系へと変化しています。

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