ウィスキー・オン・ザ・ロック

ウィスキー・オン・ザ・ロック事件

ウィスキー・オン・ザ・ロック事件は、1981年10月27日にソ連海軍のウィスキー級潜水艦U-137がスウェーデンの領海で座礁した出来事を指します。この事件は両国政府間に深刻な政治問題をもたらしました。

事故の概要

座礁の経緯

U-137はソビエト連邦の通常動力型潜水艦であり、NATOのコードネーム「ウィスキー級」として知られています。この潜水艦は元々は沿岸警備用に設計されましたが、一部は誘導ミサイル潜水艦へと改造されていました。1981年の10月27日、U-137は推進動力を充電するために浮上し、微速で航行していました。

この時、艦長のピョートル・グージン少佐は就任したばかりで、責任は新任の航法士官にありました。彼は経験不足から不正確な航法を行い、実際にはスウェーデンの領域内を航行していたにもかかわらず、無意識のうちに180キロメートルもずれた位置にいたのです。艦橋の見張り員が左右に黒い物体を確認しましたが、航法士官はこれを油の帯として無視しました。結果として潜水艦はスウェーデンの岩礁に座礁してしまいました。

問題の深刻化

朝方、潜水艦がスウェーデン東岸のカールスクルーナから約10キロメートルの地点に座礁したことが判明しました。カールスクルーナはスウェーデン海軍の重要な基地の近くであり、意図しない航法ミスにもかかわらず、その座礁地点が軍港の目の前であったため、状況は非常に深刻なものとなりました。

当時、スウェーデンではソ連潜水艦による領海侵犯が頻繁に発生していたため、この事件も故意の行動と捉えられました。特に、スウェーデンの漁船が被害を受ける事例が相次いでいたことから、政府はU-137の目的がスウェーデンの軍事活動を監視するためであったと考えました。

離礁とその後

U-137を離礁させるためにスウェーデン側は曳船を送ることを提案しましたが、艦長はこれを拒否しました。副長のベセージン氏は、艦橋で手榴弾を持ち、スウェーデン側が艦内に乗り込むことがあれば自沈する覚悟であると示しました。ソ連側は航法ミスを理由に領海侵犯の意図を否定し、航海日誌を提出しましたが、この行動が逆に潜水艦の不十分な航法を露呈することになりました。

この事件は「ウィスキー・オン・ザ・ロック」と揶揄され、メディアにも多く取り上げられることとなりました。事件が発生した数日後、ソ連の艦隊周辺で領海に侵入する船があり、緊張が高まりましたが、それはドイツの穀物輸送船であったことが判明しました。

最終的にU-137が解放されたのは、両国政府の合意がなされた11月6日のことでした。スウェーデン国防調査局はU-137に核兵器が搭載されているかどうか調査を行い、艦内でウラン238に似た放射性物質を検出しましたが、確認には至りませんでした。ソ連側は核兵器の搭載を公式に否定していましたが、その後、副長のベセージンは一部の魚雷が核魚雷であったことを認める発言をしました。

グージン少佐は事件後に解任され、地上勤務に異動されたのちに除隊しました。この事件はソ連とスウェーデンの関係において重要な意味を持った出来事として記憶されています。

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