ウィピル

ウィピル：メソアメリカを彩る伝統衣装

メソアメリカの先住民女性たちが身につける伝統衣装、ウィピル。長方形の布を2～3枚縫い合わせた貫頭衣で、その丈はブラウスのような短いものから、ワンピースのような長いものまで様々です。ユカタン半島では「イピル」と呼ばれ、年齢を問わず幅広い世代に親しまれています。

ウィピルの歴史と多様なスタイル

ナワトル語に由来するウィピルは、古くからアステカ女性の日常着として、巻きスカートであるクウェーイトルと合わせて着用されていました。現代でも、多くの地域で受け継がれていますが、そのスタイルは地域や民族によって大きく異なります。

グアテマラのマヤ人は、丈の短いウィピルの裾を巻きスカートの中にたくし込み、帯で締めるスタイルが一般的です。一方、オアハカ州テワンテペク地方のサポテコ族は、裾を出して着用します。また、袖丈も、上腕を覆う短いものから肘下まで覆う長いものまでバリエーション豊かです。脇の縫製も、腕を通す穴を残して閉じているものと、開けたままのものがあり、それぞれの地域の伝統が反映されています。

織りと素材の多様性

ウィピルの制作には、伝統的な腰機を用いる地域と、高機を用いて幅広の布を織る地域があります。多くは白木綿の平織りであるマンタが用いられますが、茶木綿や黒ベルベット、レーヨン、絹、レースなど、様々な素材が使われています。近年では、商品として生産され、多様な色彩の布を使ったウィピルも流通しています。高地などでは、毛糸を織り込んで保温性を高めたものも見られます。羽毛やレース、フリル、リボンなどで装飾を施すなど、それぞれの地域の個性あふれるウィピルが制作されています。

民族と地域による紋様の個性

ウィピルのデザインは、地域や民族、さらには村ごとに異なるのが特徴です。オアハカ州テワンテペク地峡のサポテコ族のウィピルは、黒ベルベットに鮮やかな花模様の刺繍が施され、マニラ・ガレオン貿易の影響を受けた中国やフィリピンのデザインの影響が見られます。一方、同じオアハカ州の山地サポテコ族では、白木綿にシンプルな刺繍と色糸の房を飾ったものが伝統的です。既婚女性と未婚女性ではデザインに違いがあり、それぞれの社会的地位が反映されています。

チナンテコ族やクイカテコ族のウィピルは、赤を基調とした幾何学模様や鳥などのモチーフが織り込まれ、呪術の習慣で知られるミシュテカ族のウィピルには、太陽、花、サソリ、クモなどの刺繍が施されています。グアテマラのマヤ人のウィピルは、肩から胸、背にかけて精緻な刺繍が施されているのが特徴です。

色彩と象徴性

ウィピルの色彩も重要な要素です。マヤ文明では、赤や緑といった特定の色に特別な意味が込められていました。伝統的には、コチニールで赤色を染め、織り上げた布を染めるのではなく、染めた糸を使って織ったり、刺繍を施したりしていました。オアハカ州のミシュテカ族やワベ族では、貝紫で染めた紫の糸を使ったウィピルが用いられてきました。

現代におけるウィピル

現代のウィピルは、先住民女性の日常着であり、祝祭の衣装として着用されています。同時に、先住民女性の収入源として、都市部や観光客向けにも生産されています。メキシコの画家フリーダ・カーロが好んで着用したことで有名であり、彼女の作品にもウィピルを身に着けた姿が多く描かれています。また、政治家ベアトリス・パレデス・ランヘルも、公務の際に様々な地方のウィピルを着用していました。ウィピルは、メキシコ先住民の文化とアイデンティティを象徴する重要な衣装であり続けています。

もう一度検索