ウエスタンデジタル

ウエスタンデジタル（Western Digital）の歴史と技術革新

ウエスタンデジタル（Western Digital Corporation、WDまたはWDC）は、ハードディスクドライブ（HDD）とフラッシュメモリー製品を製造するアメリカのストレージ製造企業です。1970年代の創業から数々の技術革新を成し遂げ、ストレージ業界を牽引する存在となっています。

創業と初期の事業

1970年4月23日、ゼネラル・デジタル（General Digital）として設立された同社は、当初MOS半導体の試験装置を製造していました。その後、個人投資家やエマーソン・エレクトリックからの資金提供を受け、特殊半導体メーカーへと転換。1971年7月には現在の社名に変更し、カリフォルニア州ニューポートビーチに移転しました。初期には電卓用チップで収益を上げていましたが、1970年代中頃の石油危機と主要顧客の倒産により経営危機に陥り、連邦倒産法第11章の適用を申請しました。その後、エマーソンの支援が打ち切られたものの、自主再建を目指し、独自のマイクロプログラム方式CPU「MPC-1600」やフロッピーディスクドライブコントローラーチップ「WD1771」などを開発しました。

ストレージ事業への参入

1980年代初頭、WDはストレージ関連産業に本格的に参入しました。HDDコントローラーの開発に注力し、1983年にはIBM PC/AT向けにコントローラー「WD1003」を供給する契約を獲得。このコントローラーは、後のATAインターフェースの基礎となりました。1986年には、コンパックおよびCDCのMPI部門と共同でATAインターフェースを開発しました。この技術を基盤とした製品群が、WDの収益と成長を大きく牽引しました。

事業の多角化とハードディスク事業への集中

1980年代後半、WDはグラフィックカード（パラダイス）、チップセット（ファラデー）、ネットワーキングなど事業を多角化しましたが、ストレージ関連チップとディスクコントローラーが依然として主要な収益源でした。1988年には、PCハードウェアメーカーのタンドンからハードディスク生産工場を買収し、自社ブランドのディスクドライブ「Centaur」シリーズの生産を開始しました。1990年代に入ると、PC業界がATAやSCSIに移行する中で、ハードディスクコントローラーの需要が減少。WDはCaviarドライブをリリースし、ハードディスク事業に専念することを決定。グラフィックカード部門はフィリップスへ、ネットワーキング部門はSMC Networksへ、SCSIチップ部門はアダプテックへ売却しました。Caviarドライブは成功を収めたものの、1990年代後半には競争が激化し、WDは低迷期に入りました。1998年、IBMの技術援助を受け、GMRヘッドなどの技術を利用したExpertシリーズを開発し、市場での地位を取り戻しました。

2000年代以降の成長と買収

2000年代に入ると、WDは8MBのキャッシュを内蔵したHDDをリリースし、高性能HDD市場で競争力を高めました。また、2003年には初の10,000rpmシリアルATA HDDを発売しました。2011年には日立グローバルストレージテクノロジーズ（HGST）を買収し、HDD業界での影響力をさらに強化しました。この買収は、欧州委員会による独占禁止法の調査を経て、2012年に完了しました。買収後、HGSTブランドは徐々にWDブランドに統合され、2018年にはHGSTの公式サイトが閉鎖されました。また、2015年にはサンディスクを買収し、フラッシュメモリー事業にも参入しました。

近年の動向と不祥事

2017年以降、WDはクラウドストレージプロバイダーの買収やフラッシュメモリストレージアレイメーカーの買収・売却を行い、事業ポートフォリオを再編しました。2020年代には、高性能SSD「WD Black SN850」を発表し、SSD市場でのプレゼンスを高めました。2021年には、My Book Live NASドライブのデータ消去問題が発生し、ユーザーに混乱を引き起こしました。2023年にはサイバー攻撃を受け、顧客情報を含む大量のデータが流出するという不祥事が発覚。これにより、My Cloudサービスが一時停止し、ユーザーに大きな影響を与えました。また、キオクシア（旧東芝メモリ）との合併交渉が中断され、フラッシュメモリ事業の分離が発表されるなど、事業再編の動きが活発化しています。

技術革新の歴史

WDは、数多くの技術革新を成し遂げてきました。

1971年：世界初のシングルチップUART（WD1402A）
1976年：世界初のシングルチップフロッピーディスクコントローラー（WD1771）
1981年：世界初のシングルチップST-506コントローラー（WD1010）
1983年：ATAインターフェースのベースとなるHDDコントローラー（WD1003）
1986年：コンパック、CDCと共同開発したATA
1986年：初期のSCSIインターフェースチップ（WD33C93）
1987年：世界初のバスマスタリングISA SCSIコントローラー（WD7000）
1987年：世界初のシングルチップPC/AT互換フロッピーディスクコントローラー（WD37C65）
1988年：世界初のシングルチップATAハードディスクコントローラー（WD42C22）
1990年：Caviarハードドライブ
2001年：世界初の一般市場向け8MBバッファ付ドライブ
2003年：世界初のSATAドライブ (10,000 rpm)
2004年：世界初のフラッシュメモリリーダー内蔵ハードドライブ（Media Center）
2006年：世界で初めて透明な窓をつけたハードディスクドライブ
2007年：世界初のノートPC向け250GBドライブと、デスクトップ向け750GBドライブ
2013年：120GBのSSDと1TBのHDDが融合したWD BLACK²

製品ラインナップ

WDは、多岐にわたる製品ラインナップを展開しています。

ハードディスクドライブ (HDD)

WD Raptor：3.5インチ 10000rpm の高性能モデル
WD VelociRaptor：ハイパフォーマンスモデル
WD Caviar：3.5インチモデル
WD Blue：一般用途向け
WD Blue SSHD：8GB NAND型フラッシュメモリ搭載モデル
WD Green：大容量・省電力モデル（現在はBlueに統合）
WD Black：ハイパフォーマンスモデル
WD Red：NAS向け、ランダムアクセス重視
WD Purple：監視カメラ向け、長時間稼働対応
WD Re：データセンター向け
WD AV：家電・AV機器向け
WD Scorpio：2.5インチモデル
WD Blue：一般用途向け
WD Blue SSHD：8GB NAND型フラッシュメモリ搭載モデル
WD Green：大容量・省電力モデル
WD Black：ハイパフォーマンスモデル
WD Black2：120GB SSDと1TB HDDのハイブリッドモデル
WD Red：NAS向け、ランダムアクセス重視
WD AV：家電・AV機器向け

ソリッドステートドライブ (SSD)

WD Gold：業務用エンタープライズクラスNVMe SSD
WD Black SN7xx/SN8xx：ゲーミング・ハイエンドNVMe SSD
WD Blue SN5xx：スタンダードモデルNVMe SSD
WD Blue SA5xx：スタンダードモデルSATA SSD
WD Green SN3xx：エントリー向けNVMe SSD
WD Green：エントリー向けSATA SSD（2023年内に出荷終了）
WD Red SN5xx：NAS向けNVMe SSD
WD Red SA5xx：NAS向けSATA SSD
WD SiliconEdge Blue：SSD
WD SiliconDrive III：SSD
WD Ultrastar：業務用、旧HGSTブランド、HelioSeal採用モデルあり
WD Sentinel：業務用
My Book：バックアップ用

競合企業

主な競合企業は以下の通りです。

シーゲイト・テクノロジー
東芝デバイス&ストレージ

不祥事

2023年、「My Cloud」サービスへのサイバー攻撃により、顧客情報が流出する事件が発生しました。ハッカーは同社から約10TBのデータを盗み出し、身代金を要求。WDはシステムやサービスを一時的にオフラインにする措置を講じ、その後復旧作業を進めました。この事件は、企業のセキュリティ対策の重要性を改めて浮き彫りにしました。

まとめ

ウエスタンデジタルは、ハードディスクドライブとフラッシュメモリー製品で世界をリードするストレージ製造企業です。1970年代の創業以来、数々の技術革新を成し遂げ、ストレージ業界の発展に貢献してきました。しかし近年では、不祥事や事業再編など、課題も抱えています。今後もストレージ市場での競争は激化することが予想されますが、同社の技術力とブランド力を活かし、さらなる成長を目指すことが期待されます。

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