ウル王朝のゲーム

ロイヤルゲーム・オブ・ウル：古代メソポタミアの知恵と運のゲーム

紀元前3000年初頭、古代メソポタミア文明の中心地で生まれたとされる『ロイヤルゲーム・オブ・ウル』。これは、2人対戦のボードゲームであり、現在確認されている双六型ゲームとしては最古級のものです。このゲームは、イギリスの考古学者、レオナード・ウーリー卿がイラクの古代都市ウルで行った発掘調査で発見されたことから、その名が付けられました。単なるゲームというだけでなく、社会階級を問わず広く楽しまれ、迷信的な要素も加味された、当時の社会を映す鏡ともいえる存在でした。

広大な広がりと文化的影響

ロイヤルゲーム・オブ・ウルは、イラクのみならず、イラン、シリア、エジプト、レバノン、スリランカ、キプロス、クレタ島など、古代中東地域に広く分布していました。エジプトのツタンカーメン王の墓からも、類似のゲーム盤が見つかっており、その人気ぶりが伺えます。ゲーム盤にはダイスや駒を収納する箱が付属しており、中にはセネトという別の古代エジプトのゲーム盤が裏側に作られたものもあったようです。

当時の人々は、ゲームに占い的な要素を見出していたようです。特定のマスに止まると「友達ができる」「ライオンのように強くなる」「美味しいビールが手に入る」といった、将来を暗示するような解釈がなされていました。ゲームでの成功が、現実の成功につながると信じる人もいたようです。このことは、ゲームが単なる娯楽ではなく、信仰や運命と深く結びついた存在であったことを示唆しています。

考古学的な調査によれば、ゲームのルールや盤面のデザインは、時代とともに変化を遂げていたことが分かっています。紀元前1800年頃にはメソポタミアからレバントへ、紀元前1600年頃にはエジプトへと伝播し、地域ごとに独自の改良が加えられていきました。しかし、古代末期には衰退し、忘れ去られてしまう運命を辿ります。その理由は明確には分かっていませんが、バックギャモンの登場が関係している可能性も指摘されています。

現代への復活とルールの解明

ウーリー卿の発掘調査で発見されたゲーム盤は、当初、そのルールは謎に包まれていました。しかし、1980年代初頭、大英博物館の学芸員アーヴィング・フィンケルは、バビロニアの律法学者イッティ・マルドゥク・バラートゥの粘土板を解読することに成功します。この粘土板には、紀元前2世紀頃のゲームのルールが記されており、フィンケルはこれを基に、ゲームの遊び方を再現しました。

フィンケルは、この粘土板とゲーム盤の形状から、ゲームのルールを復元しました。基本的な流れは、四面体のダイスを振って出た目に従って駒を進め、相手より先に自分の駒をすべてゴールさせることです。現代のバックギャモンと類似点が多く、戦略と運の両方が勝敗を左右します。

さらに、フィンケルはインドのコーチンに住むユダヤ人社会において、このゲームの亜流が現代まで伝わっていたことを発見しました。「アーシャ」と呼ばれるこのゲームは、メソポタミアの原型と類似点を持ちながらも、駒の数や盤面の配置に違いが見られます。これは、古代に中東からインドへ持ち込まれたゲームが、独自の進化を遂げたことを示しています。

ゲームのルールと遊び方

ロイヤルゲーム・オブ・ウルのゲーム盤は、独特の形状をしています。長方形のボードと、中央から突き出た細い通路のような部分で構成されており、その通路で相手の駒を捕獲することもできます。駒は7個ずつ2セット、それぞれ異なる模様が描かれています。四面体のダイスを4つ使用し、出た目の合計分だけ駒を進めていきます。

ゲームの目的は、自分の駒をすべてゴールに導き、盤上から取り除くことです。ただし、ゴールには特定の条件を満たす必要があり、運と戦略が求められます。盤上には「ロゼッタ」と呼ばれる特別なマスがあり、このマスに止まると、もう一度ダイスを振ることができます。また、賭けの要素もあったと推測されており、ゲームの盛り上がりを更に高めていたと考えられています。

類似ゲーム「ゲーム・オブ・トゥエンティ」

ロイヤルゲーム・オブ・ウルと類似したゲームに「ゲーム・オブ・トゥエンティ」があります。エジプトのセネトというゲームの箱の裏面に刻まれていたことから知られており、エジプト以外にもバビロンやメソポタミアなどで遊ばれていたようです。ルールは完全には解明されていませんが、ロイヤルゲーム・オブ・ウルと同様、運と戦略を組み合わせたゲームであったと考えられています。

まとめ

ロイヤルゲーム・オブ・ウルは、単なるゲームを超え、古代メソポタミア文明の社会構造や信仰、文化交流を理解するための貴重な手がかりを与えてくれます。その歴史と謎は、現代においても人々を魅了し続けています。

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