ウンベルト・ボッシ

ウンベルト・ボッシ：激動のイタリア政界を生きた地方自治の旗手

ウンベルト・ボッシ（Umberto Bossi, 1941年9月19日 - ）は、イタリアの政治家であり、同盟（旧・北部同盟）の創設者として知られています。書記長および名誉代表を歴任し、行政改革担当大臣や自治大臣、さらには下院議員（6期）と上院議員（2期）を務めるなど、長きにわたりイタリア政界で重要な役割を果たしました。

共産主義からの転向と北部同盟の設立

ボッシは、もともと共産主義者でしたが、革新的な地方分権思想に触発され、次第に郷土主義へと軸足を移していきます。当時のイタリア政界は、タンジェントポリと呼ばれる汚職事件によって旧来の大政党が崩壊し、混迷を極めていました。そのような状況下で、ボッシは国家分裂をも辞さない強硬な姿勢を打ち出し、支持を集めて党勢を拡大しました。しかし、彼自身も後に汚職事件によって失脚することになります。

生い立ちと共産主義への傾倒

1941年、ロンバルディア州ヴァレーゼ県カッサーノ・マニャーゴで生まれたボッシは、労働者階級の家庭で育ちました。技術専門学校で電気技師の資格を取得した後、パヴィア大学で医学を学びましたが、学位は取得できなかったとされています。青年時代から共産主義に傾倒し、新左翼政党であるイタリア・プロレタリア共産主義連合の活動家として活動しました。1975年にはイタリア共産党に入党し、地元ヴァレーゼ県のサマラーテ共産党支部に配属されます。

郷土主義への転向

1970年代、ボッシはアオスタの地域政党「ヴァルドスタン連合」との関わりを通じて頭角を現し始めます。同連合の指導者であるブルーノ・サルヴァドーリの郷土主義と反国家主義・反ファシズムの影響を受け、共産主義から郷土主義へと転向しました。1980年にサルヴァドーリが事故死すると、ボッシは故郷に戻り、組織作りを始めます。

北部同盟の結成と躍進

1984年、ボッシはロンバルディア州の地域政党「ロンバルディア州自治同盟」を設立し、後に「ロンバルディア同盟」へと改称します。ミラノを中心とするロンバルディア州が、他州に税収を奪われているという主張は、一定の支持を集めました。1987年には上院議員に当選し、国政に進出。北イタリア各地の地域政党と連携し、1989年に北部同盟を結成しました。

パダーニャ独立宣言と失脚

1990年代、ボッシは過激な主張を繰り返し、地方分権を「連邦制への移行」または「北部諸州の分離独立」へとエスカレートさせていきます。1996年には、ポー平原に由来する新国家パダーニャの独立を宣言しましたが、国内外から承認されることはありませんでした。その後も、左右両勢力から批判を浴び、政界で孤立を深めます。

汚職事件と失脚

2012年、北部同盟内で党費の不正流用疑惑が浮上し、ボッシの家族の個人口座に送金されていたことが明らかになります。この責任を問われ、ボッシは20年間務めた書記長職を辞任しました。その後、「名誉代表」の称号を与えられましたが、実質的な権限は剥奪されました。

サルヴィーニとの対立と晩年

2013年、北部同盟の書記長選挙で、ボッシはマッテオ・サルヴィーニに大差で敗れます。サルヴィーニは北部同盟を右派ポピュリスト政党として再編し、ボッシはこれに強く反発しました。2018年の総選挙でサルヴィーニ体制の同盟は圧勝しましたが、ボッシは党内での影響力を失い、晩年は不遇をかこちました。

家族

ボッシは2度の結婚歴があり、子供たちの名前は彼の政治的主張を反映した奇異なもので知られています。長男には「ロベルト・リベルタ」（自由）、次男には「エリダノ・シリオ」（ポー川の神）と名付けました。息子のレンツォはロンバルディア州議会議員に当選しましたが、スキャンダルも多く、物議を醸しました。

ウンベルト・ボッシは、イタリア政界において、地方自治と郷土主義を唱え、大きな影響力を持った政治家でした。その過激な言動や汚職事件など、毀誉褒貶の激しい人物でしたが、イタリア政治史にその名を刻んだことは間違いありません。

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