エウメーロス

ギリシア神話の世界には、エウメーロス（古希: Εὔμηλος）という名前を持つ人物が複数登場します。長母音を省略してエウメロスと表記されることもありますが、彼らはそれぞれ異なる家系や伝承を持ちます。古代の文献には、オウィディウスの『変身物語』やソポクレースの悲劇『エウメーロス』にもこの名が見られますが、具体的にどのエウメーロスを指しているのかは明確ではありません。

特に言及されることの多いエウメーロスとしては、以下の人物たちが挙げられます。

パトライの王

アカイア地方、パトライの地に古くから根付いていた王家の一員で、アンテイアースという息子がいました。農耕術を広めるためにパトライを訪れたトリプトレモスから、エウメーロスは農業や都市建設の方法を学びました。しかし、彼の息子アンテイアースが、トリプトレモスが休んでいる間に有翼の蛇の戦車に乗ろうとして誤って転落し、命を落とすという悲劇に見舞われます。この出来事の後、エウメーロスはトリプトレモスと共に新しい都市を築き、息子の名を記念してアンテイアと名付けたと言われています。

メロプスの子

メロプスという人物の息子で、アグローン、ビュッサ、そしてメロピスという子供たちの父でした。この家族は、大地を司る女神ガイアを深く信仰し、熱心に畑を耕すことに専念していましたが、他のオリュンポスの神々には全く敬意を払いませんでした。これを知ったヘルメース、アテーナー、アルテミスという三柱の神は、人間の姿に身を変えて彼らの元を訪れ、それぞれの祭りに参加するよう勧めました。しかし、エウメーロスとその家族は神々の言葉に耳を貸さず、かえって彼らを嘲笑しました。その結果、神々の怒りに触れ、メロピスは小型フクロウに、ビュッサはビュッサ鳥に、アグローンはチドリに、そしてエウメーロス自身もフクロウに変えられてしまいました。

エウグノートスの子

テーバイに住んでいた人物で、ボトレースという息子がいました。エウメーロスはアポローン神を信仰していましたが、息子のボトレースがアポローンへの犠牲を捧げる儀式の前に、供物となる動物の脳を食べてしまうという冒涜的な行為を犯しました。これに激怒したエウメーロスは、祭壇に灯されていた松明で息子を打ち殺してしまいました。エウメーロスと彼の家族は息子の死を深く嘆き悲しみ、アポローン神はボトレースを憐れんで、彼をハチクイという鳥に変えました。

アドメートスの子

テッサリアー地方、ペライの王アドメートスと、献身的な妃アルケースティスの子として生まれました。ペリメーレーという姉妹がおり、妻としてはイーカリオス（ペーネロペーの父）の娘でペーネロペーの姉妹にあたるイプティーメーを娶りました。彼はスパルタ王メネラーオスの妻ヘレネーに求婚した多くの英雄の一人としても知られています。トロイア戦争が勃発すると、エウメーロスはギリシア軍の武将としてペライの軍勢11隻を率いて参戦しました。彼は優れた馬術の持ち主であり、特に彼が駆った二頭の牝馬は、かつてアポローンがアドメートスに仕えていた時期に育てたもので、ギリシア軍の中でも特に速い馬として評価されていました。戦争中、パトロクロスの葬礼競技で開催された戦車競走に参加し、ディオメーデース、メネラーオス、アンティロコス、メーリオネースらと優勝を争います。スタート直後は先頭を快走しましたが、アポローンがディオメーデースの邪魔をしたことでアテーナーの怒りを買い、アテーナーによって戦車を壊され転倒して負傷、最下位でゴールすることになります。しかし、アキレウスはその不運を憐れみ、二等賞を贈ろうとしましたが、二着でゴールしたアンティロコスが異議を唱えたため、代わりにアステロパイオスから奪った見事な鎧をエウメーロスに与えました。後のアキレウスの葬礼競技にも参加したと伝えられますが、その勝者についてはメネラーオスであったとも、エウメーロス自身であったとも諸説あります。

この他にも、プラトンが『クリティアス』の中で語るところによれば、海の神ポセイドーンとクレイトーの間に生まれた十人の子供の一人として、アトランティスの王アトラースの双子の兄弟で、ガデイラ（現在のカディス）の王となったエウメーロス（土地の言葉でガデイロスとも呼ばれた）が言及されています。また、一説にはドローンの父とされたり、イーカリオスの娘ペーネロペーに求婚した一人に数えられたりするエウメーロスも存在します。

このように、「エウメーロス」という名前は、様々な神話伝承の中で複数の人物に用いられており、それぞれの物語は多岐にわたります。

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