アトラース

アトラースについて

アトラース（古希: Ἄτλας, Atlās）は、ギリシア神話に登場する神々の一人で、その名は「支える者」「耐える者」「歯向かう者」という意味を持つ古印欧語に由来します。長母音を省略した「アトラス」でも知られ、巨大な身体を持ち、両腕と頭で天の蒼穹を支える姿が特徴です。また、彼の名は土星の第15衛星アトラスにも使用されています。

系譜

彼はティーターン神族の一員で、父はイーアペトス、母はオーケアノスの娘クリュメネーです。兄弟にはプロメーテウス、エピメーテウス、メノイティオスがいます。アトラースは、アルカディア地方のキュレーネー山でオーケアノスの娘プレーイオネーとの間に7人の娘、プレイアデスをもうけました。さらには、ヘスペロスの娘たちヘスペリデスとの間にも7人の娘が誕生しました。また、オーケアノスの妃であるテーテュースとの間に女神カリュプソーがいます。

神話

アトラースはティーターン神族がゼウスと戦った際（ティーターノマキアー）に敗れ、ゼウスによって世界の西の果てで天空を背負う役割を担わされました。これはアトラースにとって大きな苦痛であり、彼の運命を大きく左右します。後に英雄ヘーラクレースが訪れ、ヘスペリデスの庭園から黄金の林檎を持ち帰るよう命じられますが、その場所が分からず、カウカーソス山で縛られているプロメーテウスに助言を求めました。プロメーテウスからアトラースに会うことを勧められたヘーラクレースは、彼に相談することに決めました。

アトラースは自分が天空を支えている重荷から解放されたいと考えて、ヘーラクレースに頼むことを決意しました。彼は、「私が庭園に行き、林檎を持ってくる間、代わりに天を支えてほしい」とお願いしました。ヘーラクレースはその要求を受け入れ、アトラースが出発した後、彼が戻るのを待つことにしましたが、アトラースは戻ったらそのまま林檎をミュケーナイに届けると言い、再び天を支えることを強要しようとします。しかし、ヘーラクレースは巧妙にアトラースを騙し、彼が見本を見せている間にその隙に林檎を手に取り、逃げてしまいました。こうしてアトラースは再び天を背負う羽目になってしまったのです。

別の神話では、英雄ペルセウスがメドゥーサを討伐した際、アトラースのもとを訪れたことがあります。ペルセウスが持っていたメドゥーサの首により、アトラースは石になってしまいます。この神話にはいくつかのバリエーションがあり、アトラースが重荷に耐えかねて自らメドゥーサの首を見せてもらい、石と化したというものや、ペルセウスがアトラースを追い返そうとしたため逆上し、結果として石になったというものも存在します。アトラースが石となった名残は、アトラス山脈に見られると言われています。

アトラスという名の由来

アトラスという名は、16世紀にメルカトルが地図帳の表紙としてアトラースを描いたことに由来すると考えられています。元々、1595年の初版ではマウレターニア王アトラースが描かれ、その後1636年版から神々のアトラースに変更されました。また、アトラスは1950年代末から1960年代初期にかけてアメリカが開発した大陸間弾道弾の名称としても使用され、後には宇宙開発に転用されました。

余録

アトラースに関する文化的な影響も多く、フランツ・シューベルトの歌曲集『白鳥の歌』にはアトラースを題材にした作品が収められています。また、アイン・ランドの小説『肩をすくめるアトラス』では、アトラースは世界の経済を支える隠喩として扱われています。

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