エピナール

エピナール：フランスが生んだサラブレッドの星

エピナール(Épinard, 1920年-1942年頃)は、フランスで生まれ、その類まれな才能でヨーロッパ、そしてアメリカを席巻したサラブレッド競走馬です。フランス語でホウレンソウを意味するその名とは裏腹に、彼は競馬界に鮮烈な足跡を残しました。

ヨーロッパでの輝かしい経歴

フランスの実業家、ピエール・ヴェルテメールによって生産されたエピナールは、アメリカで種付けされた母馬エパインブランシュから生まれました。2歳シーズン、彼はデビュー戦となるドーヴィル競馬場のヤコウレフ賞を制すると、勢いに乗ってグランクリテリウム、フォレ賞、クリテリウム・ド・メゾンラフィット、コトー賞と主要競走を次々と勝利。その年の最優秀2歳牡馬の栄冠に輝きました。

3歳になると、イスパーン賞やグロシェーヌ賞といった重賞競走でも勝利を収め、その実力をさらに証明します。勢いに乗ったエピナールはイギリスへと遠征。グッドウッド競馬場で行われたスチュワードカップでは、強豪を相手に優勝を飾りました。続くケンブリッジシャーハンデキャップでは惜しくも2着。ハンデキャップの重さが影響した結果となりました。4歳時にはサーギャラハッドとのマッチレースに臨みましたが、脚の痛みを抱えながらも善戦し、僅差で敗れました。

大西洋を渡った挑戦：アメリカ遠征

1923年、エプソムダービー馬パパイラスとケンタッキーダービー馬ゼヴによる英米ダービー馬同士のマッチレースがアメリカで開催され、大成功を収めました。この成功を背景に、翌年も海外の競走馬を招へいすることが検討され、その候補として選ばれたのがエピナールでした。

ヴェルテメールはアメリカ側の関係者との交渉を経て、アメリカ遠征を承諾。「インターナショナルスペシャル」と銘打たれた3つの特別競走にエピナールが出走することになりました。キュナード・ラインの船でニューヨーク港に到着したエピナールは、ベルモントパーク競馬場、アケダクト競馬場、ラトニア競馬場で行われたインターナショナルスペシャル3競走全てで2着という好成績を残しました。その後、ローレルステークスに出走しましたが、5着に終わり、ここに彼の競走馬としてのキャリアに幕を閉じました。

アメリカでの勝利こそありませんでしたが、インターナショナルスペシャルでの活躍は高く評価され、エピナールは同年のアメリカ最優秀古牡馬に選出されました。

種牡馬として、そしてその最期

競走馬を引退したエピナールはアメリカで種牡馬入りしました。その後フランスに戻り、一時的にアメリカで種牡馬活動を行うなど、精力的に活動しました。種牡馬としての成功は競走馬時代ほどではありませんでしたが、それでもアメリカとヨーロッパで合計27頭のステークス勝ち馬を輩出しました。代表的な産駒にはEpithet(ホープフルステークス)、Rentenmark(ガネー賞)などがいます。

エピナールの生涯の最後は、第二次世界大戦下の悲劇に彩られています。フランス占領下の1942年頃に死亡したとされていますが、その経緯には諸説あり、ドイツ軍に接収され馬車馬として働かされたのちに死亡したとする説や、1940年にダンケルクの海岸で死亡したとする説などがあります。

卓越した才能と華麗な競走生活、そして悲劇的な最期。エピナールは、競馬史に永遠に刻まれた、忘れられない名馬として記憶されています。彼の生涯は、国際的な競馬交流の歴史においても重要な一章を飾っています。

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