エミラウ島の無血占領

エミラウ島の無血占領：太平洋戦争における戦略的転換点

エミラウ島の無血占領は、太平洋戦争における連合軍の重要な勝利の一つであり、特にラバウル攻略に向けた戦略において、その後の戦局を大きく左右する転換点となりました。この作戦は、ダグラス・マッカーサー陸軍大将が指揮するラバウル包囲網構築の最終段階として位置づけられ、1944年3月20日にアメリカ海兵隊が上陸しました。

作戦の背景：ラバウル包囲網と戦略的転換

1943年2月、マッカーサーはラバウルの攻略を目的とした「エルクトン・プラン」を統合参謀本部に提出しました。当初の計画では、ラバウルとトラック諸島間の航空機輸送拠点であるカビエンを奪取し、ラバウルを孤立させる戦略が立てられていました。しかし、アドミラルティ諸島の戦いでの連合軍の勝利が確実になると、進撃速度を速める必要が生じました。

3月5日、日本軍の暗号解読により、マッカーサーは当初の攻略目標であったハンサ湾を避け、ホーランジアを攻略することを決定しました。この変更は、航空支援の範囲外であったホーランジア攻略のために、マッカーサーが太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツ海軍大将に支援を要請する事態となりました。しかし、ニミッツは中部太平洋方面の作戦への影響を懸念し、カビエン攻略にも反対しました。最終的に統合参謀本部の裁定により、カビエン占領計画は取り消され、ホーランジア攻略が優先されることとなりました。

しかし、マッカーサーの参謀長リチャード・サザランド陸軍中将はカビエン攻略に強い意欲を持っていました。一方、ニミッツはトラック島空襲とエニウェトクの戦いの結果、ラバウルへの増援は断たれると判断していました。3月12日、マッカーサーとニミッツはカビエン攻略計画を「最小限の力でラバウルとカビエンの孤立を完成させる」作戦に切り替えることで合意しました。南太平洋軍司令長官ウィリアム・ハルゼー海軍大将もラバウルとカビエンは航空戦力で無力化できると確信しており、マッカーサーはハルゼーに対し、エミラウ島確保のための戦力抽出を要請しました。これを受けてハルゼーは、セオドア・S・ウィルキンソン少将率いる第3両用戦部隊にエミラウ島確保を命じました。

戦闘経過：無血占領とその意義

ハルゼーからの命令は3月15日にウィルキンソンのもとに届き、カビエン攻略のために出撃予定だった艦船の行動が一時停止されました。攻略部隊は、ロイ・ガイガー海兵少将率いる第1海兵水陸両用部隊を主体とし、第4海兵連隊を増強して編成されました。

エミラウ島攻略に際し、第4海兵連隊には海兵第3設営トラクター大隊、M4「シャーマン」を装備した海兵第3戦車大隊、信号、兵站および運搬を担当する海兵第3戦闘兵站連隊、そして対空戦担当の海兵第14防空大隊が追加されました。この部隊は、ローレンス・F・レイフスナイダー海軍准将が指揮する第4海兵強襲大隊の最初の作戦として編成されました。遠征軍は、第3海兵師団の副司令官であるアルフレッド・H・ノーブル海兵准将が指揮を執りました。

エミラウ島には日本軍の有力な部隊はいないと推定されましたが、それでも海空からの強力な援護が実施されました。ロバート・M・グリフィン海軍少将が指揮する戦艦群や護衛空母は、カビエンに対して海と空からの制圧と砲撃を行い、大量の砲弾を消費しました。この攻撃は、カビエンの日本軍司令官に上陸作戦が近いという印象を与え、ヨーロッパ人捕虜を処刑する命令を出す結果となりました（カビエン大虐殺）。

3月20日、攻略部隊は上陸を開始しました。第4海兵連隊は高速輸送艦とドック型揚陸艦に分乗し、LVT（水陸両用トラクター）が一斉に海岸に殺到しました。海兵隊第218飛行中隊のF4Uコルセアが上空援護を行う中、攻略部隊は抵抗を受けることなく海岸に到達しました。唯一の問題は、戦車を搭載した揚陸艇が起動に失敗したことでした。

エミラウ島の近隣のエロムッソー島にも部隊が送られましたが、その際、兵員1名が砲弾の破片で負傷しました。しかし、上陸部隊は現地の住民から日本軍が2か月前に島を去ったという情報を得ました。日本軍はムッソウ島に移動したと伝えられました。3月20日の夕暮れまでに、3,727名の兵員と844トンの軍需品がエミラウ島に陸揚げされました。その後1か月以内に、合計18,000名の兵員と44,000トンの軍需品が追加で陸揚げされました。

機密情報により、日本軍がムッソウ島に燃料庫と通信施設を有していることを知っていたため、3月23日に駆逐艦の艦砲射撃によってこれらの施設を破壊しました。3月27日には、ムッソウ島付近で日本軍のカヌーを発見し、駆逐艦の艦砲でこれを撃破しました。この戦闘は、エミラウ島を含むセント・マティアス諸島海域での唯一の戦闘となりました。

かくして、エミラウ島は1名の負傷者を出しただけで連合軍の手に渡り、アドミラルティ諸島の占領と合わせてラバウルとカビエンに対する封鎖が完成しました。エミラウ島の確保は、ハルゼーが南太平洋軍を指揮して行った最後の作戦となりました。その後、ハルゼーは第3艦隊の名称を保持したまま、レイモンド・スプルーアンス海軍大将が指揮する大艦隊（第5艦隊）とローテーション制で指揮することになりました。

設営作業とその後の展開

エミラウ島占領後、シービーズ（海軍建設工兵隊）が基地建設に尽力しました。3月27日から第18建設連隊が活動を開始し、その後、第61、第63建設大隊、第17特別大隊、第77建設大隊が到着して活動を開始しました。魚雷艇基地や揚陸艇を活用した浮きドック、道路、兵舎、弾薬庫、滑走路、港湾施設、給油施設などが建設されました。

島の北方には2つの航空基地が建設されました。滑走路は長さ2,100メートル、幅91メートルで重爆撃機の離陸も可能でした。燃料タンクは1,000バレル入りのものが3基、供給用に19基、ドラム缶に格納された4万バレル分の燃料が備えられました。病院は3棟建設され、100床の海軍病院、160床の陸軍第24野戦病院、150床の「エイコーン7」病院が整備されました。

ハンバーグ湾は主力艦を5隻まで停泊させることができ、港湾施設は8基のクレーン、1,200立方メートルの冷蔵施設、37,000立方メートルの貯蔵施設から構成され、1日あたり910立方メートルの貨物処理能力がありました。これらの施設は全長64キロに及ぶ全天候型の道路で連結されました。設営作業は8月にはほぼ完了し、12月までにすべての建設大隊がエミラウ島から引き揚げました。

駐屯部隊は、4月11日に第4海兵連隊が第147歩兵連隊と交代し、その後、第369歩兵連隊が島の守備を引き継ぎました。8月には、マッカーサーは島の守備をオーストラリア陸軍に移譲するよう指示しました。航空隊は、12月まで第12海兵航空群が駐留しましたが、その後はニュージーランド空軍が基地を使用しました。1945年3月20日には、マッカーサーは守備隊の規模縮小を発表しましたが、3か月後に撤回されました。最終的に、ニュージーランド空軍も7月までに撤退しました。

まとめ

エミラウ島の無血占領は、太平洋戦争における戦略的な転換点であり、連合軍がラバウルとカビエンの封鎖を完成させる上で重要な役割を果たしました。この作戦は、わずか1名の負傷者で完了し、その後の連合軍の進撃を大きく促進しました。また、エミラウ島に建設された基地は、その後の作戦において重要な拠点となり、戦後の復興にも大きく貢献しました。

この作戦の成功は、事前の情報収集、綿密な計画、そして現場での柔軟な対応の重要性を示す好例です。エミラウ島の占領は、太平洋戦争における連合軍の戦略と戦術において、重要な教訓を提供するものと言えるでしょう。

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