エリミ人

エリミ人：古代シチリアの謎に包まれた民族

エリミ人（またはエリモイ人）は、青銅器時代からギリシア古典期にかけてシケリア（シチリア島）に居住していた古代民族です。彼らは、ベリーチェ川沿いに都市国家を建設し、セゲスタ（現在のセジェスタ）を行政的な中心都市、エリュクス（現在のエリーチェ）を宗教的な中心としていました。その他、エンテラ、ハルキアエ、イエタスなどの都市も重要でした。

起源の謎

エリミ人の起源は依然として謎に包まれています。古代の歴史家の多くは、トロイア滅亡後にシケリアへ逃れてきた人々の子孫であると述べていますが、この説には異論も出ています。考古学的な調査からは、エリミ人と東隣のシカニ人との間に明確な違いは見られず、元々は同じ民族だった可能性も指摘されています。

起源に関する学説は二つ存在します。一つは、シケリア外からの移住説で、中東、イベリア半島、イタリア半島などが候補に挙げられています。もう一つは、青銅器時代末期からシケリアに居住していた人々の末裔とする説です。近年の研究では、シケリアの原住民が外部からの影響、特にカルタゴやギリシアの影響を受け入れた結果、エリミ人として独自性を確立したという見方が有力になっています。彼らの社会・政治形態はギリシアのポリスに似たものへと発展し、セゲスタにはギリシア式の神殿が建設されました。

未解読の言語

エリミ人は、自身の言語を表現するためにギリシア文字を使用していました。しかし、現在まで残っているのは碑文などに記された短い文章がほとんどで、エリミ語は未だに解読されていません。トゥキディデスは、彼らのことを「野蛮人（異言族）」と記述しています。現代の研究者は、エリミ語がインド・ヨーロッパ語族に属すると考えていますが、具体的なグループについては議論が続いています。アナトリア語、トラキア語、フリュギア語、古代バルカン諸語、ヒッタイト語、エトルリア語、イタリック語派などとの関連が指摘されています。

歴史

エリミ人は、領土という概念に固執しなかったため、他の地中海諸民族からは「野蛮人」と見なされることもありました。しかし、エリミ人の都市は、初期においてはギリシア人やフェニキア人に征服されることはありませんでした。紀元前5世紀頃までは、ギリシア人、フェニキア人、カルタゴ人と平和的に共存し、ギリシア人都市と同盟を結ぶこともありました。ギリシア化が進む一方で、フェニキア人やカルタゴ人との交易も続け、特にギリシア人都市であるセリヌスとは密接な関係を築いていました。

しかし、セリヌスの勢力拡大に伴い、エリミ人最大の都市セゲスタとの間に境界紛争が発生します。セゲスタは、まずアテナイと同盟を結び、紀元前415年から紀元前413年にかけてアテナイはシケリア遠征を行いますが、敗北に終わります。その後、セゲスタはカルタゴの属領となることを条件に救援を求め、カルタゴは紀元前409年に大規模な遠征軍を派遣し、セリヌスを破壊しました。

第一次ポエニ戦争では、エリミ人は共和政ローマに味方し、カルタゴと戦いました。その後、シケリアはローマのシキリア属州となりますが、エリミ人は無税という特権を得ます。これは、エリミ人がトロイアの子孫であるという主張が、同じくトロイアの子孫であるとするローマ人に認められたためと考えられています。ローマの支配下で、エリミ人は他の民族と交じり合い、民族としての独自性を失い、歴史の舞台から姿を消していきました。

エリミ人の歴史は、古代シチリアの複雑な文化交流と民族の興亡を物語る貴重な一例と言えるでしょう。

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