アッシリア東方教会

アッシリア 東方教会：歴史と教義、そして現代

アッシリア東方教会は、古代のネストリウス派（東方教会）の流れを汲む、キリスト教の教派の一つです。サーサーン朝ペルシア帝国を経て、唐代の中国に景教として伝わった歴史を持ちます。アッシリア教会、アッシリア東方使徒教会、東方アッシリア教会とも呼ばれます。アッシリア正教会という名称も用いられることがありますが、教会自身は「オーソドックス（正教）」という自称を用いないため、この呼称は誤りです。

教義と誤解

アッシリア東方教会は、三位一体を否定していると誤解されることがありますが、実際にはニカイア・コンスタンティノポリス信条に基づく三位一体論を認めています。

歴史

起源

アッシリア東方教会の起源は、5世紀にエフェソス公会議で異端とされたコンスタンティノープルの大主教ネストリウスを支持する人々が、東方へ移動し、メソポタミアで布教を開始したことに始まると説明されることがあります。しかし、実際には、ネストリウス派の母体となったシリア語キリスト教徒コミュニティは、2世紀には既にパルティア領内に成立しており、公会議の動向とは関係なく、サーサーン朝でも存続・拡大していました。この教会共同体が、5世紀にネストリウスと同じ立場に立つ人々の受け皿になったのです。

410年には、セレウキア・クテシフォンの主教が「東方の全キリスト教徒の長」の称号を与えられ、426年にはアンティオキア総主教の管轄から外れ、その長が「カトリコス」（のちに「総主教」）を名乗ることが決議されました。

サーサーン朝からイスラーム時代へ

サーサーン朝の保護を受け、ビザンツ帝国とその正統教会（カルケドン派）による「ネストリウス派」の異端視は、5世紀後半以降のことです。486年には、モプスエスティアのテオドロスの教えに基づく神学が採択されました。

644年にイスラム教徒のアラブ人がサーサーン朝を滅ぼした後も、アッシリア東方教会の扱いは大きく変わりませんでした。ティモテオス1世のような知識人を輩出し、ギリシア語の哲学書や医学書がアラビア語に翻訳されるなど、イスラーム文化の発展にも貢献しました。

インドへの伝播

アッシリア東方教会は東方へ進出し、中央アジアや唐などの外地で布教活動を行いました。南西インドのマラバール海岸に渡った一派は、ナスラーニー（トマス派）と合流し、カルデア・シリア教会の流れにつながりました。

衰退と分裂

その後、イスラームへの改宗などにより信徒数は漸減し、イルハン朝期に一時的に教勢を回復したものの、壊滅的な打撃を受けました。現在では、山岳地帯とその周辺部の少数派として存続しています。

1553年には、一部がローマ教皇庁に帰一し、カルデア典礼カトリック教会を形成しました。また、1968年にはアッシリア東方教会から分裂して、古代東方教会が独立しました。

教派間関係

東方諸教会のうち、非カルケドン派正教会は「オリエンタル・オーソドックス」として相互領聖関係を構築していますが、アッシリア東方教会はこれに加わっていません。しかし、1994年には、アッシリア東方教会の総主教マル･ディンハ4世とローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が共同宣言に調印し、両教会の相互尊重が確認されました。

中東における迫害

アッシリア人・アッシリア東方教会信徒は、オスマン帝国崩壊時にアルメニア大虐殺と並行してジェノサイドの対象となり、多数の犠牲者を出しました。現代のイラクでも、テロや脅迫などの迫害に遭っており、地域によってはジズヤの支払いを要求されることもあります。

現況

現在、アッシリア東方教会の信者はイラク、アメリカ合衆国などに広く分布しており、総主教庁はアメリカ・イリノイ州にあります。大主教区は「インド」、「イラク・ロシア」、「豪州・ニュージーランド・レバノン」の3つ、主教区はアメリカ東部、アメリカ西部、カリフォルニア、カナダ、ロシア、欧州、シリア、イランなどに設けられています。

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