エルサレム攻囲戦 (紀元前63年)

エルサレム攻囲戦（紀元前63年）

紀元前63年、共和政ローマのグナエウス・ポンペイウスによって行われたエルサレム攻囲戦は、ハスモン朝ユダヤの内紛にローマが介入した結果として起こりました。この戦いは、ハスモン朝の衰退とユダヤが事実上ローマの属国となる転換点となりました。

背景：ハスモン朝の内紛とローマの台頭

ハスモン朝ユダヤでは、女王サロメ・アレクサンドラの死後、息子であるヒルカノス2世とアリストブロス2世が王位を巡って争い、内戦状態に陥っていました。当初はヒルカノス2世が王位を継承しましたが、アリストブロス2世の反乱によって王位と大祭司の地位を追われることになります。

ヒルカノス2世は、イドマヤ人のアンティパトロスの助言を受け、ナバテアのアレタス3世に支援を要請。領土割譲を条件に5万人の兵士の提供を受け、アリストブロス2世をエルサレム神殿に包囲しました。

一方、ポンペイウスは第三次ミトリダテス戦争を終結させ、セレウコス朝シリアを滅ぼしてシリア属州を設置。オリエント地域におけるローマの影響力を拡大していました。ダマスカスに派遣されたレガトゥスのマルクス・アエミリウス・スカウルスは、ヒルカノス2世とアリストブロス2世双方から支援の要請を受けますが、資金力のあるアリストブロス2世を支持し、アレタス3世にエルサレムの包囲を解くよう命じます。

紀元前63年、ポンペイウス自身がダマスカスに到着すると、ヒルカノス2世とアリストブロス2世は調停を求めました。ポンペイウスは結論を先延ばしにし、ナバテアの状況を確認すると伝えましたが、アリストブロス2世はこれを無視してアレクサンドレイオンの要塞に立て篭もります。これに怒ったポンペイウスはローマ軍をユダヤに進軍させ、アリストブロス2世は降伏。エルサレムへのローマ軍入城と金銭の贈与を約束することで赦免されますが、ポンペイウスの命を受けたアウルス・ガビニウスがエルサレムを占領しようとすると、アリストブロス2世の支持者はこれを拒否。約束を反故にされたポンペイウスはアリストブロス2世を捕らえ、エルサレムを包囲する準備を開始しました。

攻囲戦の経過

エルサレムに到着したポンペイウスは、その堅牢な防御に苦戦を強いられます。しかし、ヒルカノス2世の支持者の協力により、ローマ軍はエルサレムの一部を掌握。アリストブロス派は神殿の丘に立て篭もり、徹底抗戦の構えを見せました。

ポンペイウスは神殿を取り囲む塁壁を築き、包囲を固めます。ローマ軍は堀に盛土を行い、攻城兵器を用いて神殿への攻撃を開始。3ヶ月後、ついにバリスの塔の一つを破壊し、神殿への突入に成功しました。

戦闘では約12,000人のユダヤ人が殺害されましたが、ローマ軍の死者はごくわずかでした。ポンペイウスはエルサレム神殿の至聖所に入りましたが、財宝を奪うことはなく、翌日には神殿を清めさせ、儀式の再開を許可しました。

戦後の影響

エルサレム攻囲戦は、ハスモン朝にとって大きな災厄となりました。ポンペイウスはヒルカノス2世を大祭司として復帰させましたが、王位は剥奪。ユダヤは自治権を保持したものの、ローマへの朝貢と従属を義務付けられ、実質的な属国となりました。

また、ハスモン朝が領有していた地中海沿岸の平野部はローマに組み込まれ、ユダヤは地中海へのアクセスを失いました。さらに、サマリアを失ったことで、ユダヤの領域は南北に分断されることになりました。

戦後、ヒルカノス2世の権勢は名目的なものとなり、実際にはアンティパトロスが権力を掌握。その後、ユダヤはローマ内戦に巻き込まれ、カエサルの支援を受けることになります。カエサルはユダヤに領土の一部を返還し、ヒルカノス2世の地位を一部回復させましたが、アンティパトロスは暗殺され、その息子であるヘロデが後にヘロデ朝ユダヤの王となりました。

エルサレム攻囲戦は、ハスモン朝の衰退とローマの支配が確立される契機となり、その後のユダヤの歴史に大きな影響を与えました。

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