至聖所

至聖所とは、宗教的な建造物において最も神聖な場所を指す言葉です。様々な宗教において、神聖な儀式や神への奉納が行われる特別な空間として位置づけられています。エジプトの神々を祀る神殿や、旧約聖書に登場する幕屋やエルサレム神殿など、その形態や役割は宗教によって異なりますが、共通して最も神聖で重要な場所であるという点は変わりません。

旧約聖書における至聖所

旧約聖書には、幕屋とエルサレム神殿の二つの至聖所が登場します。

幕屋の至聖所

幕屋の至聖所は、移動式の神殿であり、一辺10キュビト（約4.5メートル）の立方体の空間でした。アカシヤの木材で組まれた枠に布を掛け、外界と隔てられていました。この中には契約の箱が安置されており、年に一度、贖罪日に大祭司のみが入ることを許されていました。また、香の祭壇も至聖所内に置かれ、煙で満たすことで契約の箱を直接見ることがないように配慮されました。荒野においては、至聖所の上空に昼は雲、夜は火が留まっていたと伝えられています。

エルサレム神殿の至聖所

エルサレム神殿の至聖所は、列王記上の記述によると、一辺20キュビト（約9メートル）の立方体でした。内壁は彫刻が施された杉の板で覆われ、天井から床まで金が施されていました。内部には、高さ10キュビト、翼の長さが5キュビトのケルブの木像2体（ケルビム）が設置され、この木像にも金が被せられていました。エルサレム神殿の至聖所もまた、契約の箱が安置され、過越の祭りの前の贖罪日に大祭司のみが入ることを許される神聖な場所でした。

正教会の至聖所

正教会においても、至聖所は聖堂内で最も神聖な場所として扱われています。聖書と伝統に基づいて、神品（司祭や主教）とその補助者（いずれも男性のみ）のみが入ることが許されています。至聖所は、イコノスタスと呼ばれる仕切りで聖所と区切られており、その中心には聖体機密（聖体礼儀）が執行される宝座があります。宝座は、聖堂の中でも最も重要な祭壇であり、聖なるものが降臨する場所として崇められています。

至聖所の正面左奥には、奉献台が設けられています。ここでは、聖爵などの聖器物が安置され、聖体礼儀に必要なパンと葡萄酒を準備する奉献礼儀が行われます。また、至聖所には福音経が宝座に安置されているほか、燭台、ディキリとトリキリ（ろうそく立て）、リピタ（聖杯などを覆う布）など、様々な祭具が置かれています。イコンは、他の聖堂と同様に、至聖所にも飾られています。

このように、至聖所は様々な宗教において、神聖な空間として尊重されています。その形態や役割は宗教によって異なりますが、それぞれの宗教において、最も神聖で重要な場所であることは共通しています。

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