第三次ミトリダテス戦争

第三次ミトリダテス戦争：ポントス王国の終焉とローマの覇権確立

第三次ミトリダテス戦争は、紀元前75年から紀元前65年にかけて、ポントス王国とローマの間で戦われた一連の紛争の最終局面です。ミトリダテス6世率いるポントス王国が当初攻勢に出るも、ローマの逆襲とグナエウス・ポンペイウスの遠征によって滅亡へと向かいました。この戦争は、ローマが東地中海地域における覇権を確立する上で重要な転換点となりました。

開戦までの経緯

第二次ミトリダテス戦争後、一時的に平穏を取り戻したかに見えたポントスとローマの関係でしたが、ポントス国内での反乱やカッパドキアとの国境紛争など、地域的な不安定要素は依然として燻っていました。紀元前77年、クィントゥス・セルトリウスがヒスパニアでローマに対して反乱を起こすと、ミトリダテス6世はこれに呼応し、紀元前75年にローマへの宣戦布告に踏み切りました。

戦争の経過

ルクッルスのビテュニア・ポントゥス戦役（紀元前74年 - 紀元前71年）

紀元前74年の春、ミトリダテス6世はアルメニア王国やボスポロス王国と同盟を結び、大軍を率いてビテュニアに侵攻しました。ビテュニア王ニコメデス4世が後継者を残さずに死去し、王国をローマに遺贈していたため、ローマは新たな支配者として総督コッタを派遣しました。しかし、ミトリダテス6世はカルケドンに立て籠もるコッタを包囲し、ビテュニアを制圧、さらにアシア属州へと進出しました。

これに対し、ローマはグナエウス・ポンペイウスをヒスパニアへ、ルキウス・リキニウス・ルクッルスをアシア属州へ派遣しました。ルクッルスは現地兵と合わせて5個軍団を編成し、ミトリダテス6世軍を迎え撃ちました。キュジコスの戦いでは、キュジコス市の頑強な抵抗とルクッルスの補給線遮断作戦が功を奏し、冬にはローマ軍が勝利を収めました。ミトリダテス6世軍は退却中に大きな損害を被りました。

その後、ローマはビテュニアの占領を確実なものとし、ポントスは軍の再建に時間を費やしました。紀元前71年、ルクッルスはポントスに侵攻し、各地の都市を攻撃しました。ミトリダテス6世はカビラの戦いでルクッルスに敗れ、アルメニアへと亡命しました。ルクッルスはポントス全土を制圧し、支配下に置きました。

ルクッルスのアルメニア戦役（紀元前69年 - 紀元前67年）

ルクッルスはアルメニアに対し、ミトリダテス6世の引き渡しを要求しましたが、アルメニア王ティグラネス2世（ミトリダテス6世の娘婿）はこれを拒否しました。紀元前69年、ルクッルスはポントス平定後、アルメニアに侵攻し、ティグラノセルタという都市を攻撃しました。ティグラネス2世はアルメニア軍を率いて救援に向かいましたが、ティグラノセルタの戦いで敗北しました。ティグラノセルタはギリシャ人傭兵の内応によって陥落しました。

ティグラネス2世はパルティアに援軍を要請し、ルクッルスもパルティアに対し、援軍を送るか中立を保つよう働きかけました。パルティアは両者に好意的な返事を送りつつも、静観を決め込みました。ミトリダテス6世は歩兵を率いてポントス奪回のために帰国し、ティグラネス2世は騎兵を率いてルクッルスと対峙しました。紀元前67年、ミトリダテス6世は自ら軍を率いて会戦に挑み、2度にわたって勝利を収めましたが、負傷により追撃を断念しました。

アルメニア戦役での略奪に依存したルクッルス軍は、補給難に苦しみ始めました。最終的にルクッルスは元老院に召還され、ローマ軍は撤退、ミトリダテス6世はポントスを回復しました。

ポンペイウスの諸戦役（紀元前66年 - 紀元前64年）

ヒスパニアでの反乱鎮圧と地中海の海賊討伐を終えたポンペイウスは、ミトリダテス6世討伐の指揮権を与えられました。一度ローマに占領されたポントスは、本格的なローマ軍に対抗する戦力を持ちませんでした。ポンペイウスは後方からの兵站を確立し、ミトリダテス6世を圧倒しました。ミトリダテス6世は少数の軍勢を率いてポントスからコルキスへと退却、さらにアルメニア、スキタイを経由してクリミア半島のボスポロス王国へと逃れました。

戦後処理

ポンペイウスはポントスを占領後、コルキスを通過し、アルメニアへと進軍しました。アルメニアでは、ティグラネス2世とその息子たちの間で争いが起こっていました。ポンペイウスはティグラネス2世と息子との間で国土分割の仲裁を行いましたが、息子の小ティグラネスがローマとの戦争を企てたため、捕虜としました。小ティグラネスに与えられるはずだった領土はカッパドキアに割譲されました。

紀元前64年、ポンペイウスは南下してセレウコス朝シリアを滅ぼし、ユダヤを属国としました。

一方、ミトリダテス6世はボスポロスで重税を課して軍を再編し、ガリアと同盟してイタリアに侵攻しようと企てました。しかし、紀元前63年、息子のファルナケスが反乱を起こし、ミトリダテス6世は護衛兵に命じて自害しました。ファルナケスはポンペイウスに使者を送り、ローマと講和してボスポロス王国の支配を認められました。

結論

第三次ミトリダテス戦争は、ポントス王国の滅亡とローマの東地中海地域における覇権確立を決定づける戦いとなりました。ポンペイウスの活躍によってローマは領土を拡大し、その後のローマ帝国の繁栄の礎を築きました。

参考文献
Appian, Roman History*, Volume II. Horace White訳。Cambridge and London: Harvard University Press, 1912.

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