エレクトロン貨

世界最古の貨幣、リュディアのエレクトロン貨

紀元前7世紀頃、アナトリア半島にあったリュディア王国で、世界最古の鋳造貨幣であるエレクトロン貨が誕生しました。この貨幣は、金と銀の合[[金]]であるエレクトラム（琥珀色をしていることから、ギリシャ語で琥珀を意味する「エレクトロン」と名付けられました）で作られていました。

エレクトロン貨の特徴

エレクトロン貨は、パクトロス川で産出された自然金、つまり自然界に存在する金と銀の合[[金]]を原料として作られました。この自然金は、金が70～90％、銀が10～30％ほど含まれていました。当初は、砂金そのものを秤量貨幣として使用していましたが、計量の煩雑さを解消するため、後に溶かして鋳造するようになりました。

鋳造されたエレクトロン貨は、厚みのある平たい形状で、動物の紋章や重量を示す刻印が押されていました。これは、貨幣の品質を保証し、偽造を防ぐための工夫です。重量によって価値が決まっており、複数の種類が発行されていました。

リュディア王アリュアッテス2世の時代には、品質保証されたエレクトロン貨が発行されるようになり、貨幣制度はより整備されていきました。しかし、エレクトロン貨は金の含有量を正確に測ることが困難だったため、後にクロイソス王によって金貨と銀貨の通貨制度に置き換えられました。

エレクトロン貨の普及と影響

エレクトロン貨のアイデアは、地中海世界へと広がり、ギリシアやローマの貨幣制度に大きな影響を与えました。アテナイのドラクマ銀貨やローマのデナリウス銀貨などは、その後の貨幣史において重要な役割を果たしました。

リュディアを征服したアケメネス朝のダレイオス1世も、リュディアの造幣技術と資源を活用し、ダレイコス金貨とシグロス銀貨を発行しました。これは世界で初めて人物像（ペルシア王の全身像）が刻まれた貨幣でした。また、インドや中国でも独自の貨幣が発展していき、それぞれの地域で独自の貨幣文化が花開きました。

エレクトロン貨と金銀比価

経済学者アルフレッド・マーシャルは、金銀比価の安定化策として、金銀合[[金]]貨幣を本位貨幣とすることを提唱していました。彼は、金銀合[[金]]の人工合成が困難であるとして、金貨と銀貨の兌換による方法を推奨していましたが、実は金銀合[[金]]は容易に作ることが可能です。興味深いことに、日本の江戸時代の小判なども金銀合[[金]]から作られており、マーシャルはこの事実を知らなかったようです。

まとめ

エレクトロン貨は、世界最古の鋳造貨幣として、貨幣史において非常に重要な位置を占めています。その誕生と普及は、交易の円滑化に大きく貢献し、後の貨幣制度の発展に大きな影響を与えました。また、金銀比価の問題や、世界各地の貨幣文化との比較を考える上で、エレクトロン貨は重要な研究対象となっています。 リュディアのエレクトロン貨は、単なる貨幣ではなく、古代経済や文化を理解するための貴重な手がかりと言えるでしょう。

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