シモーニデース

シモニデース：古代ギリシアを代表する抒情詩人

シモニデース（紀元前556年頃 - 紀元前468年）は、古代ギリシアを代表する抒情詩人として知られています。ケオス島（現在のケア島）出身で、その卓越した詩作は、後世の詩人や思想家に多大な影響を与えました。アレクサンドリアの学者たちからは、サッポーやピンダロスらと共に9大抒情詩人の一人に数えられています。彼の甥にあたるバッキュリデースもまた詩人として名を馳せました。

華麗なる生涯と数々の逸話

若い頃は故郷ケオス島で詩作と音楽の指導を行い、アポローン神を祀る祭のための歌（パイアン）を作っていました。しかし、才能をより広く活かすため、アテナイに移り住みます。当時、アテナイではヒッパルコス（ペイシストラトスの息子）が文学のパトロンとして知られており、シモニデースはその庇護を受けました。しかし、ヒッパルコスが暗殺されると、テッサリアに移り住み、スコパス家やアレウアス家といった有力者の保護を受けながら生活を送ります。

シモニデースとスコパス家の関係は、興味深い逸話で知られています。スコパスが戦車競走で勝利した際、祝宴でシモニデースが勝利を祝う歌を詠みました。しかし、その歌が双子の神カストルとポリュデウケスの賛美に多くの部分を割いていたため、スコパスは激怒し、報酬の一部しか支払いませんでした。残りの報酬は双子の神に請求しろとまで言い放ったのです。その直後、宴会場の天井が崩落し、スコパスと多くの客が犠牲になりました。この時、シモニデースは現場の状況を記憶から正確に再現することで、瓦礫の下敷きになった犠牲者の身元を特定することができました。この出来事が、彼の発明したと言われる記憶術「記憶の劇場」あるいは「記憶宮殿」の起源とされています。この記憶術は、ルネサンス期まで広く伝承され、記憶術の歴史において重要な役割を果たしました。

マラトンの戦い後、シモニデースはアテナイに戻りましたが、その後まもなくシケリアのシラクサに移り住み、ヒエロン1世王の宮廷で余生を過ごしました。

シモニデースは、母音の長短の区別を導入した人物とも言われています。これは後にイオニアのアルファベットに取り入れられ、広く普及しました。また、政治的にも影響力があり、ヒエロン王とテロの仲裁など、紛争解決にも貢献したと伝えられています。アテナイのテミストクレスやスパルタのパウサニアスらとも親交を持ち、ペルシア戦争に関する詩作は、強いナショナリズムを喚起したと言われています。

詩作と思想

シモニデースの作品は、断片的にしか現存していませんが、その詩作の質の高さと多様性は高く評価されています。エレゲイア、エピグラム、抒情詩、合唱詩など様々な形式の詩を書き、その内容は、英雄の賛歌、勝利の祝宴、個人的な感情表現など多岐に渡ります。

特に有名なのが、テルモピュライの戦いで戦死したスパルタ兵士の墓碑銘として詠まれたエピグラムです。この簡潔にして力強い詩は、古代ギリシアの精神を象徴する言葉として、現代にも広く知られています。

彼の作品からは、シモニデース自身の思想や倫理観もうかがい知ることができます。彼は、真の善とは何か、正義とは何かを問い続け、その答えを探求しました。また、快楽主義とは程遠く、自己制御を重んじる姿勢も見られます。彼のダージュ（葬送歌）には、絵画と詩の密接な関係性を示唆する言葉が含まれています。「詩は言葉の絵、絵は無言の詩」。この言葉は、後世の詩人や芸術家に大きな影響を与えました。

シモニデースは、詩人としての才能に加え、記憶術の考案者、政治的仲裁者としての面も持ち合わせていました。彼の生涯と作品は、古代ギリシアの文化と歴史を深く理解する上で、非常に重要な役割を果たしています。彼の詩の断片から、彼の時代を生き、考え、感じていたシモニデースの人物像が、現代に蘇ります。

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