エードラー

エードラーとは

エードラー（独: Edler）は、かつてドイツ帝国およびオーストリア＝ハンガリー帝国に存在した爵位の一つです。日本語では「免状貴族」と訳されることもあります。この爵位は、イギリスのナイトや準男爵に類似した地位と見なされることが多いですが、いくつかの重要な点で異なります。

ナイトは基本的に個人に与えられる勲位であり、世襲はできません。準男爵は世襲が可能ですが、正式な貴族とはみなされません。一方、エードラーは世襲が可能な爵位であり、姓の前に貴族であることを示す「フォン」を名乗ることができました。この「フォン」の有無は、社会的な地位を明確に示す重要な要素でした。

エードラーの歴史

エードラーという言葉は、ドイツ語で「高貴な」を意味する「Edel」に由来します。中世ヨーロッパの封建制度下では、領主の下で働く家臣団が存在しました。エードラーとは、その家臣団に仕え、小規模な領地を所有する人々を指していました。彼らは、領主の権威を背景に一定の支配権を行使していました。

時代が進み近世になると、エードラーは土地との結びつきが薄れ、国家や皇帝に仕える官僚、軍人、金融業者などに与えられる爵位へと変化しました。土地を持たないエードラーは、エードラー・フォン・「従来の姓」と名乗ることが一般的でした。しかし、中にはイザーク・レーフ・ホーフマン・フォン・ホーフマンスタールのように、地名に由来する新しい姓を名乗る例もありました。

1919年、オーストリア＝ハンガリー帝国は第一次世界大戦で敗北し、帝国は解体されました。これにより、オーストリアではすべての爵位と貴族を示す「フォン」が法的に無効となりました。しかし、オーストリアの貴族たちは、自分たちの家系が貴族であることを示すために、洗礼名の中にエードラーを組み込むことで対応しました。これは、エードラーという称号が、単なる肩書きではなく、家族の歴史や誇りを象徴するものであったことを示しています。

著名なエードラー

エードラーの爵位を授与された人物は、各界で活躍しました。以下にその代表的な例を挙げます。

レオポルト・アウエンブルッガー（医師）：18世紀のオーストリアの医師で、打診法の先駆者として知られています。
ゲオルク・クリスティアン・エーダー（植物学者）：18世紀のデンマークの植物学者で、コペンハーゲン大学の教授を務めました。
フリードリヒ・フォン・ゴットル＝オットリリエンフェルト（経済学者）：オーストリアの経済学者で、社会経済学の分野で重要な貢献をしました。
クルト・シュシュニック（政治家、オーストリア首相）：オーストリアの政治家で、1934年から1938年まで首相を務めました。
エルンスト・フォン・シューフ（指揮者）：オーストリアの指揮者で、オペラや交響曲の分野で高い評価を得ました。
フリードリーン・フォン・ゼンガー・ウント・エッターリン（第二次世界大戦時のドイツ軍将軍）：第二次世界大戦中にドイツ国防軍で活躍した将軍です。
アレクサンダー・エドラー・フォン・ダニエルス（第二次世界大戦時のドイツ軍将軍）：同じく第二次世界大戦中にドイツ国防軍で活躍した将軍です。
ヴァルデマール・フォン・バウスネルン（作曲家）：ドイツの作曲家で、後期ロマン派音楽の発展に貢献しました。
フーゴー・フォン・ホーフマンスタール（作家）：オーストリアの作家で、詩、戯曲、オペラのリブレットなど幅広い分野で活躍しました。
ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス（経済学者）：オーストリアの経済学者で、オーストリア学派の代表的な人物の一人です。
ロベルト・ムージル（作家）：オーストリアの作家で、長編小説「特性のない男」で知られています。
テオドール・エードラー・フォン・レルヒ（オーストリア＝ハンガリー帝国陸軍将校、日本にスキーを伝えた）：オーストリア＝ハンガリー帝国の軍人であり、日本にスキーを伝えた人物として知られています。
* フェリックス・ワインガルトナー（作曲家・指揮者）：オーストリアの指揮者、作曲家として知られています。

まとめ

エードラーは、中世の封建制度から近世の官僚制度へと社会構造が変化する中で、その意味合いを変えていった爵位です。単なる称号としてだけでなく、家族の歴史や社会的な地位を示す重要な要素でした。この爵位は、ヨーロッパの歴史と社会構造を理解する上で、重要な鍵となります。

参考文献

Meyers Enzyklopädisches Lexikon; Bibliographisches Institut, Lexikonverlag, Mannheim/Wien/Zürich 1975, Band 7, S. 420.

もう一度検索