エーリヒ・ラインスドルフ

エーリヒ・ラインスドルフの生涯

エーリヒ・ラインスドルフ（Erich Leinsdorf, 1912年2月4日 - 1993年9月11日）は、オーストリアのウィーンに生まれ、後にアメリカに帰化した指揮者です。彼は、卓越した音楽的才能と、演奏に対する高い要求水準、そして率直な物言いで知られていました。ヨーロッパとアメリカの両方で主要なオーケストラや歌劇団を指揮し、そのキャリアを通じて音楽界に大きな影響を与えました。

生い立ちと音楽教育

ラインスドルフは、音楽好きの父親を持つユダヤ人家庭に生まれました。5歳から音楽教育を受け始め、ザルツブルクのモーツァルテウムで指揮法を学びました。その後、ウィーン大学とウィーン国立音楽大学でチェロとピアノを専攻し、音楽家としての基礎を築きました。

指揮者としての初期

1934年から1937年まで、ザルツブルク音楽祭でブルーノ・ワルターやアルトゥーロ・トスカニーニといった巨匠たちの助手を務めました。1936年には、イタリアのボローニャでオペラを指揮し、その才能を開花させました。1937年には、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で『ワルキューレ』を指揮し、アメリカでのキャリアをスタートさせました。

アメリカへの移住

1937年、ザルツブルク音楽祭でアメリカ人実業家のチャールズ・エドワード・マーシュと出会い、彼の支援を受けてアメリカに移住しました。メトロポリタン歌劇場で副指揮者の地位を得て、才能を発揮しました。オーストリアがナチス・ドイツに併合される直前のタイミングでアメリカに渡ったことは、彼の人生において大きな転換点となりました。さらに、後にアメリカ大統領となるリンドン・ジョンソンの支援も受け、1942年にはアメリカ市民権を取得しました。

メトロポリタン歌劇場とクリーブランド管弦楽団

1938年からメトロポリタン歌劇場で常任指揮者として活躍し、特にワーグナー作品の解釈で高い評価を得ました。1939年には、ドイツ物レパートリーの責任者に就任し、その地位を確立しました。1943年にはクリーブランド管弦楽団の音楽監督に就任しましたが、第二次世界大戦への徴兵により、短期間で辞任することになりました。しかし、1982年から1984年にかけて同楽団の音楽監督が交代する時期に、何度か指揮台に立ち、その経験から「政権交代の橋渡し」と自らを評しました。

ロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団とボストン交響楽団

1947年から1955年までロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を務めましたが、ロチェスターの音楽文化に失望し、「ロチェスターは世界一小奇麗な行き止まりだ！」という言葉を残しました。その後、ニューヨーク・シティ・オペラを経て、再びメトロポリタン歌劇場と提携しました。1962年にはボストン交響楽団の音楽監督に就任し、RCAレコードと多くの録音を行いました。しかし、楽団員や管理者との摩擦も多かったようです。

歴史的事件とラインスドルフ

彼の指揮は、歴史的な出来事とも深く結びついています。1963年11月22日、ボストン交響楽団の公演中に、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺のニュースを受け、演奏を中断して聴衆に知らせるとともに、ベートーヴェンの交響曲第3番「葬送行進曲」を演奏しました。ケネディ追悼ミサではモーツァルトの『レクイエム』を演奏し、その録音は現在もCDで入手可能です。1967年には、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮する予定でしたが、第三次中東戦争勃発のため、急遽帰国を余儀なくされました。

その後のキャリア

1969年にボストン交響楽団を辞任後、数々のオーケストラに客演し、メトロポリタン歌劇場やニューヨーク・フィルハーモニックなどで指揮を執りました。1974年にはメトロポリタン歌劇場で『トリスタンとイゾルデ』を指揮しましたが、経営難による歌手のキャンセルが相次ぎ、当時の音楽監督ラファエル・クーベリックや首席指揮者のジェームズ・レヴァインの対応を批判しました。この一件がクーベリックの辞任に繋がったという説もあります。その後もメトロポリタン歌劇場で客演指揮を務めましたが、その厳格さからトラブルが絶えませんでした。

晩年

1978年から1980年までベルリン放送交響楽団（現ベルリン・ドイツ交響楽団）の首席指揮者を務めました。1976年には回想録『Cadenza: A Musical Career』を、1981年には『The Composer's Advocate. A Radical Orthodoxy for Musicians』を出版しました。1993年、癌のためスイスのチューリッヒで亡くなり、ニューヨーク州ホーソーンのマウント・プレザント墓地に埋葬されました。


エーリヒ・ラインスドルフは、その卓越した音楽性と厳格な姿勢で、20世紀の音楽界に大きな足跡を残しました。彼の音楽に対する情熱と妥協を許さない態度は、多くの音楽家や聴衆に影響を与え、今もなお語り継がれています。

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