オスカー・フリート

ドイツの著名な指揮者であり、作曲家でもあったオスカー・フリート（1871-1941）は、波乱に富んだ生涯を送りました。ベルリンでユダヤ系の商人の息子として生を受けた彼は、幼い頃からヴァイオリンの才能を示し、名手ヨーゼフ・ヨアヒムに演奏を披露する機会を得るほどでした。

しかし、一家の経済的な困難から、1880年にはギムナジウムでの学業を中断せざるを得なくなります。その後、ポツダム近郊で都市音楽師にホルンを学びますが、14歳頃にはこの職を辞し、ヨーロッパ各地を数年にわたり放浪しました。舞踏会や結婚式で演奏する流しの楽士として日銭を稼ぎ、さらにはサーカスで犬の調教師や道化師、厩番を務めるなど、異色の経歴を重ねます。

修業と初期の創作

1889年、フランクフルト・アム・マインのパルメンガルテン管弦楽団にホルン奏者として入団し、初めて指揮の経験もしました。間もなくフランクフルト歌劇場の職を得た彼は、エンゲルベルト・フンパーディンクに3年間師事し、リヒャルト・ワーグナーの作品に深く通じるようになります。このフランクフルト時代に、初期の作品である歌曲集や吹奏楽のための作品、そしてフンパーディンクのオペラを基にした管弦楽幻想曲などを生み出しました。

フランクフルトを離れたフリートは、短期間デュッセルドルフに滞在し、絵画や美術史を学ぶなど、画家への転身も考えた時期もありました。この地では世紀末の文学者たちと交流し、また指揮者ヘルマン・レーヴィの支援を得ました。しかし、1895年に完成した歌劇「恍惚の姫君」は係争のため上演されず、ボヘミアン気質ゆえの賭博が原因で財産を失い、1896年には無一文の状態でパリへ渡り、苦しい生活を送ります。

作曲家・指揮者としての成功

1898年にドイツへ戻ったフリートは、現ブランデンブルク州のヴェルデルに落ち着きました。ここでは犬のブリーダーとして生計を立てながら、フランツ・クサヴァー・シャルヴェンカに対位法を学ぶなど、音楽への研鑽を続け、作曲活動に取り組みました。1899年に結婚し、1900年にはベルリン近郊に居を構え、亡命する1934年までそこに暮らしました。

1901年にはリヒャルト・デーメルの詩によるメゾソプラノ、テノール、管弦楽のための「浄められた夜」を、1903年にはフリードリヒ・ニーチェの詩による独唱、合唱、管弦楽のための「酔歌」を完成させます。特に「酔歌」は1904年4月15日にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とワーグナー協会の演奏会で、カール・ムックの指揮により初演され、驚異的な成功を収めました。この一夜にしてフリートは有名となり、ベルリン合唱協会の指揮者に任命されることになります。同年にはデーメルの詩による「刈入れの歌」も作曲し、成功を収めました。

1905年には「酔歌」のウィーン初演がきっかけでグスタフ・マーラーと出会い、この出会いが彼のキャリアに大きな影響を与えます。同年、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の新たな定期演奏会を指揮するようになり、11月8日にはマーラーの交響曲第2番「復活」を指揮して大成功を収め、作曲者マーラー本人を深く感動させました。これを機に、フリートとマーラーの間には深い友情が育まれます。

フリートはその後もベルリン・フィルを指揮し、マーラーの重要な作品のベルリン初演を次々と実現させました（交響曲第6番「悲劇的」、交響曲第7番「夜の歌」、交響曲「大地の歌」、交響曲第9番）。1907年にはベルリン楽友協会演奏会とベルリン・フィルの指揮者を兼任し、1908年にはブリュートナー管弦楽団の指揮者も務めました。1910年には楽友協会でアルノルト・シェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」を指揮し、ウィーン以外での最初期の上演を実現しましたが、革新的な現代音楽をプログラムに取り入れようとする彼の試みはベルリンの保守的な聴衆には必ずしも受け入れられず、1912年には楽友協会の監督を辞任しました。これ以降、第一次世界大戦前の数年間で、フリートの活動の中心は次第にドイツ国外へと移っていきます。彼は海外で現代音楽の紹介者として重要な役割を果たしました。

1912年にはエミール・ヴェルハーレンの詩に基づくメロドラマ「移民」を作曲しましたが、これを最後に作曲活動からは身を引き、以降は指揮者としてのキャリアに専念することになります。

大戦後と録音、そして亡命

第一次世界大戦後、ベルリン楽壇が混乱したこともあり、フリートはますます海外での客演指揮に依存するようになります。ブダペスト、ミラノ、パリ、マンチェスター、コペンハーゲンなど、ヨーロッパ各地で精力的に活動しました。1916年にはベルリンでシベリウスの交響曲第4番のドイツ初演を指揮しています。

特に注目すべきは、ロシア革命後のソ連への訪問です。1921年、フリートはレーニンに招聘された最初の外国人指揮者として、ボリショイ劇場でベートーヴェンの交響曲第9番を指揮しました。その後も頻繁にソ連を訪れ、駅のホームでレーニンの出迎えを受けるなど、ソ連当局からの厚い信頼を得ていました。

レコード産業の興隆期において、フリートはドイツ・グラモフォンと長期の録音契約を結びました。これにより、彼の活動は再びベルリンとも強く結びつきます。1924年には、ベルリン国立歌劇場管弦楽団を指揮してマーラーの交響曲第2番「復活」を録音しましたが、これは指揮者によるマーラー交響曲の全曲録音としては世界初となる画期的な試みでした。この録音は成功を収め、アコースティック録音としては非常に実験的な成果と評されました。同年にはブルックナーの交響曲第7番の全曲世界初録音も行っています。フリートは1934年まで、特にベルリン国立歌劇場管弦楽団と数多くの録音を残し、これらは彼の指揮者としての重要な遺産となっています。

1925年には、ブリュートナー管弦楽団を母体として新設されたベルリン交響楽団（現在のベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団とは別団体）の指揮者に就任しました。このオーケストラとともに、ヨーロッパ、ソ連、アメリカ合衆国への演奏旅行を行い、1926年にはウラディミール・ホロヴィッツの西欧デビューとなったチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を指揮するなど、活発な活動を展開しました。

しかし、1933年にナチスが政権を掌握すると、ユダヤ人であり社会主義者であったフリートは危険に晒されます。1934年、彼は反ユダヤ主義の嵐が吹き荒れるドイツを離れ、ソ連邦グルジア社会主義共和国のトビリシへと亡命しました。トビリシ歌劇場の楽長やモスクワ放送交響楽団の指揮者を務め、1937年頃までは精力的に演奏活動を行っていましたが、その後は病気のために指揮台から遠ざかったようです。1941年 7月5日、ソ連市民権を与えられた直後にモスクワで亡くなりました。その死因については、今日でも詳細が不明な点があるとされています。

遺産と評価

オスカー・フリートは、20世紀前半を代表する傑出した指揮者の一人であり、世紀末から近代への音楽潮流における先導者としての功績は、後世に残された一連の録音の復刻によって徐々に再認識されつつあります。特にマーラー作品の演奏における先駆者としての評価は揺るぎないものです。

一方、フリート自身の作曲作品は、当時の聴衆に強い印象を与え、「フリート様式」とも呼ばれる独自のスタイルが話題になったにもかかわらず、今日ではほとんど忘れられています。特に20世紀に入ってからの作品、例えば「浄められた夜」、「酔歌」、「刈入れの歌」、「移民」などは、ワーグナーなどの後期ロマン派音楽、とりわけマーラーからの影響を受けながらも、彼独自の音楽語法を確立していたことを示しています。メロドラマ「移民」は、当時の社会問題を反映し、政治的な意図をもって構想された最初期の演奏会用作品の一つであり、特徴的な旋律と独特な和声が結びついた力作です。フリートの優れた作曲作品が、今後より多くの演奏家によって取り上げられ、再び楽壇で評価されることが望まれています。

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