オスマン帝国のボスニア・ヘルツェゴビナ征服

オスマン帝国によるボスニア・ヘルツェゴビナ征服

オスマン帝国は、14世紀後半から16世紀末にかけて、現在のボスニア・ヘルツェゴビナにあたる地域を征服しました。この過程は、単なる軍事的な侵略に留まらず、政治、社会、文化に大きな影響を与えました。

北西バルカンへの進出

オスマン帝国がボスニア・ヘルツェゴビナ地域への本格的な侵攻を開始する以前から、オスマン軍は度々この地域に侵入し、略奪を繰り返していました。1384年には、ティムルタシュ・パシャ率いるオスマン軍がボスニア東部を襲撃。1388年には、ビレチャの戦いでボスニア王国軍がオスマン軍を破るという勝利を収めましたが、マリツァの戦いやコソボの戦いなど、他のバルカン諸国に対するオスマン帝国の勝利は、ボスニア王国を徐々に追い詰めていきました。

1392年、オスマン帝国はスコピエを中心とするスコプスコ・クライシュテを設置。クライシュテとは、国境地帯に置かれた行政区画であり、ボスニア征服後にはボサンコ・クライシテが設置され、スコピエから統治を受けることになりました。

オスマン・ボスニア戦争

1391年に初代ボスニア王スティエパン・トヴルトコ1世が死去すると、ボスニア王国は衰退の一途をたどります。15世紀初頭には、フルヴァティニッチ家、コサチャ家、パヴロヴィチ家といった大貴族が勢力を拡大し、王国は分裂状態に陥りました。1413年、フルヴォイェ・ヴクチッチとサンダリ・フラニッチの対立が激化すると、フルヴォイェ・ヴクチッチはオスマン帝国と手を結び、1414年にはオスマン帝国がボスニアに侵攻。ハンガリー王国もこれに対抗して侵攻し、1415年には両軍が衝突。オスマン帝国が勝利し、ボスニアをめぐるパワーバランスが崩壊しました。

1414年にドニ・ヴァクフを占領したオスマン帝国は、ボスニア領内に軍を駐留させるようになり、フォチャ、プリェヴリャ、チャイニチェ、ネヴェシニェなどを次々と征服。1415年には、サンダリ・フラニッチがオスマン帝国に従属しました。1455年には、イーサ＝ベグ・イサコヴィチが西バルカンにおけるオスマン領で初めての国勢調査を実施しました。

1460年代には、ボスニア王国の領土は著しく縮小。オスマン帝国は現在の東ボスニアを支配し、大貴族スティエパン・ヴクチッチ・コサチャはヘルツェゴビナ全域を支配していました。

ボスニア併合と行政区画

1463年、オスマン帝国はボスニア王スティエパン・トマシェヴィチを処刑し、ボスニア王国の併合を完了。しかし、ハンガリー王国がヤイツェ要塞を包囲して奪取し、ハンガリー宗主権下でのボスニア王国復興を試みました。

同年、ボサンコ・クライシテがボスニア・サンジャクに改組され、イーサ＝ベグ・イサコヴィチが初代サンジャクベイに就任。1463年の王国滅亡後、マフムト・パシャがヘルツェゴビナにも侵攻し、スティエパン・ヴクチッチ・コサチャはブラガイ以北の全領土をオスマン帝国に割譲して停戦を結びました。

ボスニアにおけるオスマン領サンジャクは拡大を続け、1470年にはヘルツェゴビナ・サンジャク、1480年にはズヴォルニク・サンジャクが設置されました。王国滅亡後もボスニアの一部の要塞は抵抗を続けましたが、1481年には最後のヘルツェゴビナの要塞が陥落。コサチャ家はオスマン帝国に従属する聖サヴァ公として存続していましたが、1482年に追放されました。

1530年代までは、ハンガリー王国がサヴァ川南岸の要塞を保持していましたが、1527年にヤイツェがオスマン帝国の手に落ち、1530年代にはウソラも屈しました。ボスニア南西部は1537年にクリス・サンジャクの一部となり、ルメリア・エヤレトの下に置かれました。

その後

1580年、ボスニア・エヤレトが設置され、1592年のビハチ陥落をもって、中世ボスニア王国の版図が西端までオスマン帝国の支配下となり、現代にいたるボスニアの西側国境が形成されました。その後、ボスニア・ヘルツェゴビナのオスマン支配は大トルコ戦争中の1689年まで揺るぐことはありませんでした。

オスマン帝国の支配は、ボスニア・ヘルツェゴビナの社会、文化、宗教に大きな影響を与え、その後の歴史的展開に深く関わっています。

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