ヘルール族

ヘルール族：放浪のゲルマン部族

ヘルール族（またはヘルリ族）は、3世紀から5世紀にかけて活動したゲルマン人の一派です。彼らは、東ゴート族、フン族、そして東ローマ帝国といった様々な勢力に影響を受けながら、その歴史を刻みました。

起源と移動

6世紀の歴史家ヨルダネスによれば、ヘルール族はかつてデーン人に故郷を奪われ、放浪の民となったと伝えられています。その故郷は、現在のデンマークの島嶼部やスウェーデンの南端部にあたるとされています。プロコピオスは、ヘルール族と血縁関係にある人々がスカンジナビア（トゥーレ）にいたと記しています。バルカン半島にいた頃には、王殺しを行った後、スカンジナビアに使者を送り新たな王を迎えたという逸話も残っています。

ローマ帝国との接触

ヘルール族が歴史に登場するのは、3世紀のローマ帝国時代です。ガッリエヌス帝の時代（260年 - 268年）には、ゴート族と共に黒海沿岸やエーゲ海沿岸を荒らし回りました。267年にはビュザンティオンを略奪しますが、2年後のナイススの戦いで大半が討たれました。また、289年にはライン川河口でその姿が確認されています。

フン族の支配と独立

4世紀末、ヘルール族は東ゴート族に征服されます。さらに、375年に東ゴート族の王国がフン族によって滅ぼされると、ヘルール族はフン族の支配下に入りました。5世紀後半、フン族の勢力が衰退すると、ヘルール族はスロバキア南部のティサ川流域周辺に独自の王国を築きました。

王国の崩壊とその後

しかし、この王国はランゴバルド人によって破壊され、ヘルール族の勢力は衰退します。残されたヘルール族は、ランゴバルド人に従ってイタリアへ移住したり、ゲピド族の下に身を寄せたりしました。6世紀の歴史家マルケリヌス・コメスは、東ローマ帝国が人口が減って荒廃したシンギドゥヌム（現在のベオグラード）へのヘルール族の定住を認めたと記録しています。しかし、その小国も1世代後には歴史から姿を消します。

東ローマ帝国の傭兵として

ヘルール族は、長年にわたり東ローマ帝国の傭兵として活躍しました。特に、ベリサリウスのイタリア、シリア、北アフリカへの遠征に従軍し、その勇敢さを示しました。ベリサリウスの遠征では、数千人のヘルール族が親衛隊の役割を果たしたとされています。しかし、このヘルール族の傭兵も6世紀中ごろ以降は記録から姿を消します。

スカンジナビアへの帰還

プロコピオスによれば、多くのヘルール族はスカンジナビアに戻り、イェーアト族 (Gautoi) のそばに住み着いたとされています。彼らが再定住した場所は、ヴェルムランド地方、ブレーキンゲ地方、スモーランド地方などと考えられています。スウェーデンの貴族の中には、この帰還したヘルール族の末裔を自称する家系も存在します。また、アイスランドをヴァイキングよりも前に植民地化したのはヘルール族だとする説もあります。

その他の地域での痕跡

ヘルール族の名は、アングロサクソンの歴史やフランク人の歴史、北欧の歴史には登場しません。そのため、これらの地域では別の名で呼ばれていたと考えられています。ブリタニカ百科事典1911年版では、アングロ・サクソンによく見られる eorlas（貴族）や、古サクソン人の erlos（男）がヘルール族の名ではないかと示唆しています。

3世紀末以降、ヘルール族はガリアやスペインでの侵略者として、サクソン人やアラマンニ人と並んで言及されています。これらは西ヘルールと呼ばれ、ライン川下流域に定住したと考えられています。

イタリアのローマやナルニの有力な一族エローリ家 (Eroli) は、オドアケルがイタリアを征服した後に定住したヘルール族の末裔であると主張しています。

同性愛の習慣

プロコピオスによれば、ヘルール族には戦士同士の儀式的な同性愛の習慣があったとされています。彼は、若い兵士が盾を持たずに戦いに臨み、最初の戦闘で生き残ったら成人として認められるという習慣も記しています。

同性愛の歴史を研究している David Greenberg は、ヘルール族の同性愛の習慣を、ゲルマン人の男性社会（Männerbünde）における「成長の儀式としての少年愛の習慣」であり、インド・ヨーロッパ文化に普遍的に見られるものだと解釈しています。

このように、ヘルール族は、軍事的な側面だけでなく、独特な文化や社会構造を持っていたことが伺えます。

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