オヒョウ (植物)

オヒョウ（於瓢）

オヒョウ（学名: Ulmus laciniata）は、ニレ科ニレ属に属する落葉高木です。日本列島から東北アジアの山地に自生し、特に涼しい気候と肥沃な土地を好みます。アイヌ語に由来する和名を持ち、古くから人々の生活と深く関わってきました。

名称の由来と別名

オヒョウの和名は、樺太の白浦地方におけるアイヌ語の呼び名「オピウ（opiw）」に由来します。これは樹皮を指す言葉で、アイヌの人々にとってこの樹皮が非常に有用であったことを示しています。アイヌ語では、樹皮と繊維を「アッ（at）」、木そのものを「アッニ（atni）」と呼びます。樺太の方言ではそれぞれ「アㇵ（ah）」、「アㇵニ（ahni）」と呼ばれていました。

別名としては、アツシノキ（厚司の木）、ヤジナ（矢科）、ネバリジナ（粘科）などがあります。アツシノキは、アイヌの伝統的な織物である「アットゥㇱ」の材料となることに由来します。また、葉の形が矢筈に似ていることから、ヤハズレという別名もあります。

分布

オヒョウは、日本、サハリン、朝鮮半島、中国北部に分布しています。日本では北海道、本州、九州に自生し、本州以南では山地で見られます。特に東北地方や信州、木曽などに多く、水が豊富で肥沃な土地を好みます。

特徴

オヒョウは、高さ約25メートルに達する落葉広葉樹です。樹皮は淡灰褐色から灰褐色で、縦に浅く裂け、剥がれ落ちます。一年枝は淡褐色で無毛、円い皮目が散生します。

葉は楕円形から広倒卵型で、3〜9裂することが多く、縁には重鋸歯が見られます。葉の形は一枚一枚異なり、同じものがありません。両面には白い短毛が密生し、ざらついた手触りです。

花期は春（4 - 6月ごろ）で、新葉の展開に先駆けて、花弁のない淡紅色の小花が束状に咲きます。果実は長さ2cmほどの扁平な楕円形の翼果で、6月頃に褐色に成熟します。

冬芽は卵形で先が尖り、濃い栗色で光沢があり、5 - 6枚の芽鱗に包まれています。

利用

オヒョウの樹皮の繊維は非常に強靭で、織物や縄の原料として利用されます。アイヌの人々は、この繊維を染色して「アットゥㇱ（attus 厚司）」と呼ばれる布や衣類を織りました。アットゥㇱ織は、北方民族の優れた作品として知られています。樹皮を水に浸けて繊維を採取しますが、温泉水を利用するとより白く美しい繊維が得られると言われています。

木材は、器具材、薪炭材、パルプなど、様々な用途に利用されます。

オヒョウは、その強靭な繊維と多様な利用法で、古くから人々の生活を支えてきた貴重な資源です。

もう一度検索