オルランド (ヘンデル)

オルランド (Orlando) HWV 31

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの手によるオペラ・セリア『オルランド』(HWV 31) は、1732年に作曲され、1733年にロンドンで初演されました。イタリア語の台本が用いられています。本作は、ルードヴィーコ・アリオストの叙事詩『狂えるオルランド』を原作としています。ヘンデルはこの他にも、1735年に発表された『アリオダンテ』や『アルチーナ』でも、同じ原作から題材を得ています。

概要

1728年に王立音楽アカデミーが破綻した後、ヘンデルはハイデッガーと協力して組織を立て直し、5年間の契約のもとヘイマーケット国王劇場でオペラの上演を続けました。『オルランド』はこの再建期に作曲された最後の作品にあたります。台本はカルロ・シジズモンド・カペーチェが担当しており、原作には登場しない魔術師ゾロアストロが追加されている点が、この台本の特徴の一つです。

当時のオペラ・セリアにおいては、バス歌手が重要な役柄を担うことは稀でしたが、ヘンデルはゾロアストロに聴きごたえのあるアリアを与えています。本作の音楽はヘンデルのオペラ作品の中でも特に変化に富んでいます。とりわけオルランドが理性を失う場面では、変則的な5/8拍子が用いられたり、アリアの途中に別の旋律が長い時間をかけて挿入されるなど、実験的で複雑な音楽表現が試みられています。

この作品は1732年11月20日に完成し、翌1733年1月27日に初演されました。初演は好評を博し、そのシーズン中に10回上演されました。しかし、主役を務めた著名なカストラート、セネジーノは、自身のアリアが少ないことや、型破りな狂乱の描写に不満を示していたと伝えられています。同年後半にライバルとなる貴族オペラが設立され、セネジーノをはじめとする人気歌手が引き抜かれたことは、ヘンデルにとって困難な状況をもたらしました。

編成

管弦楽は以下の楽器で構成されます。

ホルン2
リコーダー2
オーボエ2
ファゴット
ヴィオレッタ・マリーナ2 (ヴィオラ・ダモーレと推測される)
弦楽器
通奏低音

登場人物

主要な登場人物は以下の通りです。

オルランド：騎士 (コントラルト、カストラート)
アンジェリカ：カタイの王女 (ソプラノ)
メドーロ：アフリカの王子 (コントラルト)
ドリンダ：羊飼いの娘 (メゾソプラノ)
ゾロアストロ：魔法使い (バス)

物語の中でオルランドがかつて助けた王女イザベラについて言及されますが、彼女自身は舞台に登場しません。

あらすじ

第1幕

物語は魔法使いゾロアストロが星に祈りを捧げる場面で始まります。苦悩する騎士オルランドが登場すると、ゾロアストロは彼に、愛に囚われるのではなく戦士としての本分を全うするよう諭します。かつて恋人同士だったオルランドとアンジェリカですが、アンジェリカは傷ついたメドーロを手厚く介抱するうちに彼と愛し合うようになります。一方、羊飼いの娘ドリンダもメドーロに心を寄せていました。メドーロはドリンダに対し、アンジェリカは親戚であり恩義があるだけだと説明しますが、ドリンダはその言葉を完全に信じることができませんでした。

ゾロアストロはアンジェリカに、オルランドが裏切りを知れば報復しようとするだろうと警告を与えます。アンジェリカは自身を探しに来たオルランドを巧みにかわし、その後メドーロとの逢瀬を約束します。しかし、物陰から様子を伺っていたドリンダに二人の関係が露見してしまいます。アンジェリカとメドーロがドリンダを慰めようとする一方で、ドリンダは嘆き悲しむ三重唱で幕が閉じられます。

第2幕

メドーロへの思いを断ち切れないドリンダは、オルランドと出会い、アンジェリカがメドーロと共にこの地を去ったことを伝えます。ドリンダがアンジェリカから贈られた宝石を見せると、オルランドはそれがかつて自分がアンジェリカに贈ったものであることに気づき、裏切られた怒りから復讐を誓います。

ゾロアストロは、森の月桂樹の下で密会するアンジェリカとメドーロに現れ、オルランドの怒りを避けるため早く出発するように促します。二人は月桂樹に互いの名を刻み、その場を後にします。二人を追ってきたオルランドは、月桂樹に刻まれた名を見て激怒します。オルランドはアンジェリカを見つけて追い詰めますが、ゾロアストロの魔法の助けによりアンジェリカは無事に逃げ延びます。激しい怒りによってオルランドは正気を失い、自分が冥府にいるかのような幻覚に苛まれます。

第3幕

メドーロはオルランドの追跡から身を隠すため、ドリンダの家を借ります。続いてオルランドがドリンダのもとを訪れ、唐突に愛を告白したためドリンダは驚きますが、彼の言動から気が狂っていることに気づきます。ゾロアストロが現れ、密かに魔法をかけます。

ドリンダはアンジェリカに対し、オルランドが自分の家を壊し、メドーロを殺害して埋めたと語ります。そこへ狂気に駆られたオルランドが現れ、アンジェリカを崖から突き落とします。ゾロアストロの魔法によってオルランドは眠らされ、癒しの薬を与えられます。目覚めて正気に戻ったオルランドは自らの行いを深く悔やみますが、その時、アンジェリカとメドーロが無事に現れます。ゾロアストロは自分が二人を救ったことを明かします。

集まった人々はオルランドに許しを請います。オルランドは、これまで怪物と戦ってきたが、今回は自分自身と愛の神に打ち勝ったと宣言し、アンジェリカとメドーロが結ばれることを認めます。登場人物全員による合唱で物語は幕を閉じます。

近年の演奏

20世紀に入り、特に1920年代のドイツではヘンデルのオペラ復活上演が盛んに行われ、『オルランド』も1922年にはドイツ語に翻訳・編曲された版がハレ・ヘンデル音楽祭で上演されました。1980年代にもいくつかの公演が行われ、ピーター・セラーズによるSF的な解釈を取り入れた演出や、ニコラス・マクギーガンによるバロック様式に忠実な演出などが注目されました。2007年にチューリッヒ歌劇場で上演されたイェンス＝ダニエル・ヘルツォーク演出の公演（指揮：ウィリアム・クリスティー）は映像化されており、舞台設定を19世紀末のサナトリウムに移すという大胆な解釈がなされています。

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